BtoBメーカーのウェブ活用

第1回:ウェブ活用の現状と可能性

執筆者:代表取締役社長 気賀崇

ウェブ活用に向けて:ロードマップづくりからはじめよう

このように、BtoBメーカーのウェブ活用は様々な理由から、まだ発展の初期段階にある。だが、グローバルな競争の激化に加えて景気の出口が見えない今、多くのBtoBメーカーでは、これまでのような営業体制を維持できなくなりつつあり、効率化への要請は強まるばかりだ。一方で、ウェブサイトの社会的プレゼンスは高まり、何を調べるにもまずはウェブから、という行動パターンが定着した。BtoBメーカーにおいてもファーストコンタクトはウェブ経由という状態になりつつある。呼び込み策だけでなく、ウェブサイトそのものの充実化を真剣に考えるべき時期に来ているのではないだろうか。

ただし、ウェブサイトの多様な特徴全てを一気に活かすことは現実的ではない。まずは顧客の検討・購入プロセスを整理し、それぞれの施策がウェブでも可能なのか、ウェブでやるとすればどんな形態がありうるのかをチェックされたい。日本産業広告協会(現・日本BtoB広告研究会)が提唱するBtoBの購買プロセスモデルであるASICA(Assignment/Solution/Inspection/Consent/Action)や電通のAISAS(Attention/Interest/Search/Action/Share)などを参照すると良いだろう。ウェブで従来と同品質の情報伝達ができるならば、顧客にとっての選択肢を増やす意味で実施すれば良いし、施策によっては、これまでのメディアを上回る、もしくは不可能だった品質が可能になるケースもあるはずである。先述のように、購買プロセスの前半におけるネット施策は広く検討されているため、後半、つまりウェブサイトに呼び込んだ後にどのようなコンテンツ・機能を提供できるのか、徹底的に洗い出してみたい。

次に、リストアップされた各施策に、効果や実現性、コストなどで優先順位を付け、中長期のロードマップに落としてみよう。企業内で現実性をもって受け入れられるためには3ヵ年程度の計画に収めることが良かろうが、全施策を実施し、全社に根付かせるためには、5年から10年はかかるというのが、筆者の感覚である。いずれにせよ、こうしてロードマップに可視化することができれば、社内の関係者にウェブの可能性と、それを活かしきるには時間がかかるということを理解してもらうことが出来る。

企業内でのウェブの存在感は確実に向上しているが、そのスピードに人員増が追いついていないのが実態だ。そのため、ウェブ担当者はどうしても緊急度の高い、日々のメンテナンスに集中せざるを得なくなる。長期的にウェブをどう活用するのかを、徹底的に考えてみる必要性を感じつつも、そうなってしまっていることだろう。自社の事業にウェブがどこまで使えるのか、ロードマップに落とす作業を通じて、徹底的に考え抜いてみることをお勧めする。

ウェブの特性を使い切るために:積極的な情報公開姿勢

最後に、ウェブの特性を使い切るために必要な心構えについて言及しておきたい。それは、「なるべく多くの情報を積極的に掲載する」という姿勢である。積極的な情報公開と言えば、迫られて渋々出しがちな事故や不祥事に関する情報を自ら進んで出す、の意で語られることが多い。もちろんそれも含むのだが、ここでは企業のことを“余すことなく”伝える姿勢と捉えたい。

例えば米国のBtoBメーカーサイトでは、研究者のブログや連絡先一覧などが良く見られる。日本では、「会社の統一見解とずれたらどうするのか?」「機密事項が漏れたらどうするのか?」「ライバル企業に引き抜かれやすくなる」などの心配が先に立つところだ。しかし米国企業は、対外コミュニケーションの窓口を一本化してしまえば埋もれてしまいがちなナレッジを公開することのメリットが、それらマイナス要因を上回ると考えている。

情報掲載量に制限がなくなった利点を最大に活かすには、企業が持つあらゆる公開可能な情報をウェブに掲載した方が良い。米国企業サイトでは他に、数十年前に遡った過去製品情報、製品マニュアルなど、無制限の情報スペースという特徴を上手に活かした情報発信を見つけることが出来る。ネットは国防総省にルーツを持つ米国生まれの仕組みだが、積極的な情報発信姿勢と無制限の情報スペースという特徴が噛み合っているのも、ともに米国ならではの特性だからかもしれない。

だから、ネットの利点を活かすためには、日本企業ももっと様々な情報発信を行うべきだ。これまでは、情報を持っている企業側が、情報を持っていない顧客側に対して優位である情報の非対称性が収益の源泉だった訳だが、インターネットの普及によって、両者の情報格差は徐々に縮まりつつある。ある情報を企業が出さずとも、誰かが別のサイトで書いてしまうような時代なのだから、そろそろ「出せる情報・今ある情報」の発信に止めるのではなく、「訪問者が欲しがる情報」の発信へとの発想を転換することが必要だろう。

今まで企業は、情報量の制約を理由に、伝えたいことのみに力点を置いたコミュニケーションをしてきた。結果的にアピールの巧拙が売上を左右する側面があった。しかし、製品に関して余すことなく伝えられるようになったということは、第三者が書く口コミも含め、一製品に関する極めて多角的な情報とその選択が顧客側に委ねられつつあるということである。とすれば、アピールのあまり得意でない、しかし製品の品質そのものには絶対の自信を持つ日本のBtoBメーカーにとっては、製品のことをより伝えやすくなったという意味で、大変有利な時代が到来したと言えるのではないか。もちろんそれは、ネットを上手に活用できたら、という条件付であることは言うまでもない。

「産業広告 2009年8月号」に掲載記事より

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