BtoBメーカーのウェブ活用

第5回:連結視点とグローバリゼーション

執筆者:代表取締役社長 気賀崇

BtoBメーカーのサイト群の課題

では、BtoBメーカーのサイト群は、どの様な状況にあるのだろうか。これは、BtoCも同様なのだが、多くのBtoBメーカーサイトの運営において、連結視点が欠落しており、サイト群全体に目配りが及ばず、様々な非効率が放置されている。個々のサイトの質や使い勝手は着実に向上しているのだが、サイト群全体の品質に責任を負うしっかりとした組織がないために、全部を俯瞰した施策はなかなか実施されない。そうした組織があったとしても、サイト群全体の品質維持・向上とともに日本のco.jpサイトやグローバルサイト(本社管轄で世界に情報発信するサイト)といった巨大サイトの運用を同時に任されており、短期対応が要求される後者にほとんどの時間を取られることになる。その結果、全体を律するルールやガイドラインまでは作成出来ても、それを広く浸透させる余力がないために、コンセプトやデザインがバラバラだったり、コンテンツが重複していたり、グループ内の連携が不十分なままとなっている。 これらの問題は、コストの無駄もさることながら、ユーザーを的確にグループ企業に誘導できないことによる収益機会の損失、ブランドイメージが損なわれかねないことなど、様々な悪影響を生み出している。業務システムの世界では、部分最適の寄せ集めで出来たシステムが多大な非効率性を内在しているとわかっていながら、もはや解きほぐせない状態を“スパゲッティシステム”と呼ぶが、サイト群の問題は、新たなスパゲッティシステムの出現に他ならない。 ウェブサイトの重要性が日増しに高まる今、サイトの数も、サイトあたりのページ数もデータ量も増大しており、サイト群は急速に肥大化・複雑化してきている。デジタル化の進展を受けて、各社とも個別のコンテンツや機能に予算を掛けるようにはなってきているが、巨大化するサイト群の中では、そのコンテンツも見つけにくくなる一方だ。サイト群が解きほぐせないスパゲッティとなる前に、この問題に早く取り組むことが必要だろう。

サイト群整備の進め方

サイト群を整備するプロジェクトは、ウェブの主管部署の主導の下、連結視点で物事を捉える経営企画、ブランド推進部門、IT企画部門などと一緒に進めることになる。プロジェクトが動き出すと、世界各地にあるグループ各社の当該部署を訪ねて、それぞれのニーズを把握し、プロジェクトへの協力を取り付ける。再構築は通常3~5年と長期に渡り、様々な部署が絡むため、相当な人数と話し合う必要がある。

欧米を中心に反発を受けることも少なくないが、急速に進歩し、かつ多様な視点を要求されるウェブの活用には、どの担当者も大なり小なりの悩みを持っている。それらを解決する小さな成功を積み重ねていけば、反発を抑えることも可能だ。ただしそのためには、継続的なコミュニケーション、出来れば対面でのコミュニケーションを積み重ねることが欠かせない。

筆者の経験では、同じ会社であっても、担当者の出身が広報なのか広告なのか、事業部なのかIT部門なのかによって、ウェブの捉え方が全く異なる。高い意欲やスキルを持つ担当者がいること自体は喜ばしいのだが、その国における企業の顔となるウェブサイトの運営には、マネジメント的なバランスのとれた視点が要求される。現地が自立的に取り組むことを否定するものではないが、ウェブ担当者に要求される多面的な視点とスキルを考えると、自己流の運営を野放しにするのではなく、もう少し本社が関わって、品質の底上げを図っても良いのではないだろうか。

最後に

5回の連載を通じて、BtoBメーカーのウェブ活用の可能性を幅広く検討してきた。ここに紹介してきた施策も、様々なしがらみやコストの問題から、即実施とはいかないだろうことは重々承知している。しかし、紹介した施策は全て実在するものばかりだ。そして、その多くがここまで何年もかけて機能強化が図られてきたことを考えると、どれもユーザーからの支持を受けていると推測出来る。

そもそもインターネットは、グーテンベルグ以来の発明と言われる様に、そのインパクトは生活の全てに及んでくる。社会の在り方、コミュニケーションのあり方が根本から変わろうとしているのである。

ネットが社会に及ぼす影響を広く知りたければ、トーマス・フリードマン著「フラット化する世界」をお勧めしたい。ピューリッツァー賞を受賞したジャーナリストが、言ってみれば文系の視点で語っており、なかなかウェブの予算を増やしてくれない読者の上司にも、ネットの可能性と影響力の大きさを感じてもらうことが出来るだろう。

著者はこの本の中で、新しいテクノロジーの登場から真価を発揮するまでのタイムラグについて、経済史学者ポール・A・デビッドの指摘を紹介している。動力源としての蒸気機関が電気に置き換わる過程を例に引いて曰く、蒸気機関を電動機に交換しただけでは生産性の向上は全く見られず、電動機に精通した専門家が揃った上で、建物や組み立てラインを再構築し、製造のすべての手順を見直し、電化に適した工場運営が行われるようになって、初めて飛躍的進歩がもたらされたのだと言う。それは電気の発明から数十年後のことだったそうだ。

これをインターネットの普及過程である今に置き換えれば、さしあたりこんな感じだろう。インターネットを4マスの延長線上で使っただけでは、ネットの真価を引き出すことは出来なかった。ネットの特性を理解する人材が、企業のサイト群全体を連結視点で見直し、対外コミュニケーションをウェブの時代に即した形に抜本的に変えることで始めて、飛躍的な進歩がもたらされた、と。

つまり、インターネットはその本領をまだ発揮していない。本番はこれからなのだ。

企業は日々、世界中のありとあらゆる接点で様々なコミュニケーションを行っているが、公に出来る情報は、いずれ全てウェブサイトに載ることになるだろう。それに備えるかのように、購買プロセスの全てにおいて、デジタルコミュニケーションの存在感は高まりつつある(図2)。

図2.全購買プロセスで存在感を高めるデジタルコミュニケーション

最近話題の事業仕分けの様に、自社の対外コミュニケーションに関して、顧客のニーズに基づき、タブーなき見直しを実施して、そのあり方の再定義と適切なメディア選択をゼロベースから実施することが出来れば、ウェブの潜在性はもっと引き出せるはずだ。

だが、これはルールや組織を作れば済む話ではなく、社内カルチャーの変容をも求める息の長いプロセスとなるだろう。企業全体でウェブを使いこなせるようになるには相当の時間がかかる。ウェブ活用の模索は、今から全力で始めたとしても、決して早すぎることはないのである。

「産業広告 2010年1月号」に掲載記事より

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