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先端テクノロジーの動向調査
~ AI・業務自動化展のレポート ~

システム・テクノロジー
須田 進
BtoB企業のデジタル活用を支援するイントリックスでは、Web業界やテクノロジーの最新動向を把握し、サービスや社内業務に活かせるよう外部セミナーやイベントに積極的に参加しています。 今回は、近年ますます注目を集めているAI技術やRPA・チャットボットなど、業務自動化ソリューションが一堂に出展する「AI・業務自動化 展」に行ってきました。

新しい活用分野の発見と実用性に注目

90年代後半から長らく冬の時代が続いた人工知能(AI: Artificial Intelligence)技術は、2006年のディープラーニング発見によって第三次ブームを迎えました。2017年に囲碁の世界チャンピオンを破ったGoogleの AlphaGo や、将棋の佐藤名人に勝利したポナンザなど、ディープラーニングで強化された昨今のAIの可能性には、目を見張るものがあります。今後、 自動車産業の自動化、金融業界の信用度評価、定形業務の自動化など、さまざまな分野で人間の業務を肩代わりできるようになると期待されています。最新技術が可能にした新しい応用分野とは何なのか。面白そうなテーマであっても実用に耐えうる精度が達成できているかなど、その完成度にも注目すべきでしょう。興味を引いた展示をいくつかご紹介いたします。

 

業務自動化(RPA: Robotic Process Automation)

人間が行う単純な間接業務を自動化するテクノロジーをRPAと呼びます。いわゆる「ロボット」が何かをしてくれるというレベルよりも、もっと身近で、例えばエクセルシートの定型的な入力・編集作業やデータのエクスポート・インポート作業などは、手順さえ明確に定義できれば全てコンピュータが自動的に処理可能です。

1. RPAツール

多くの企業が RPAツール を展示していました。ツールを使って業務フローを定義しておけば、あとは自動的にコンピュータが決められた時刻に処理を実行してくれるというものです。そのためには業務フローを定型化し、それをシステムにインプットする必要があります。ツールの機能・自由度・価格に加え、定型化を請け負ってくれるサービスの有無も評価ポイントとなります。この分野では、筆者の気を引いたユニークな展示がひとつありました。

(株)ジゾン: 「ワンコインRPA」 HeartCore Robo Desktop

ブースの「ワンコイン」という言葉に誘われて…… RPAはコンサルティングもツールも非常に高価なイメージが根強いもの。それをワンコインで実現できるとは、いったいどんな仕組みなのでしょうか。

特徴:

  • 250ステップのRPAで月額500円(ワンコイン)
  • ブラウザーを立ち上げてログイン、入力、ダウンロード、エクセルを立ち上げてデータ加工・入力、業務アプリの画面にログインして加工したデータをインポートなど、Java の構文を基本にプログラミング可能
  • デスクトップ・クライアントにおけるJREで稼働。画像マッチング技術によるフィールド判定。すべてのOSやブラウザーに対応

感想:

  • ちょっとしたプロセスを自動化するのには、最適なシステム・課金モデルと思われます。
  • コピー&ペーストで2ステップなので、まとまった定形業務の自動化にも対応できるかもしれません。
  • 詳細な説明を受ける時間はありませんでしたが、高額な初期投資がなくてもRPAを試用・実装できる点が素晴らしいと思いました。AWSを筆頭に「使った分だけ払う」というモデルが海外で先行している中、日本企業の間でもこのようなサービスがもっと一般化して欲しいと思います。

ほかにも、多くの企業がRPAツールを展示していました。

共通点:

  • ドラッグ&ドロップでワークフローを定義・編集可能
  • 複数のシステムをブラウザー、CSVファイル、エクセルシートなどを経由して自動連携可能

感想:

相場としては、年間で数百万円のツール/サービスが多かったように思います。 使いこなすために業務コンサルも加えると、初期投資額は安くはなさそうです。このあたりが、日本でのRPA普及がいまひとつ進まない原因ではないでしょうか。

2. RPA導入支援サービス

RPAの導入には、既存の業務フローの分析が不可欠です。日常業務のどのような作業に、誰がどれくらい工数をかけ、その成果物を誰がどう利用しているのかなど。そうした分析を踏まえ、最適なツールを選択・導入し、保守・運用する必要があります。その部分にフォーカスした企業をひとつご紹介したいと思います。特に、人事分野におけるノウハウの蓄積が興味深いです。

PERSOL(パーソルプロセス&テクノロジー)

  • スティーブ・ウォズニアックとカルメン・デロリフィチェの「はたらいて、笑おう。」のキャッチと写真に引き込まれました。
  • 最低120万円/最短1ヶ月~、とのことです。

3. AI構築サービス

人工知能を活用したサービスの構築には2つのステップが必要です。学習モデルの構築と、実績データによる学習です。Amazon の Amazon Machine Learning プラットフォームを利用すれば、学習モデルを構築してデータをフィードして学習させることにより、「そこそこの」AIは容易に構築できるようです。日本での現状はどうなのでしょうか。

残念ながら、その分野でノウハウを持っている企業はあまり出展がなかったようです。

DATUM STUDIO

  • データサイエンティスト養成研修(Unix, SQL, Python, AI構築): 180万円/10日間
  • 出展期間中は、上述を90万円に特別ディスカウント中とのこと。
  • Unix・SQL・Pythonはどこでも安価に習得可能。90万円の価値があるAI構築のノウハウとは?

機械通訳

人間に代わってマシンが通訳してくれる…… それは長い間、私たちの夢でした。実はその夢が、既に実用段階に入っているのです。

ソースネクスト「POCKETALK」
会場入り口の左側にデモブースがあり、誰でも自由に飜訳デバイスを使えるようになっていました。手のひらに収まる小型デバイスで、選択したふたつの言語間の双方通訳が音声と文字で可能です。世界中の言語に対応できる簡潔なインターフェースと高い精度に惹かれ、イントリックスのメンバーが早速1台購入いたしました!

特徴:

  • 小さなデバイスで多数の言語に対応し、言語切り替えもワンタッチ。
  • 使用感はこちらの記事をご参照ください ⇒ 試用レポート
  • 法人価格は50,000円。量販店なら個人価格2万円台 で買えるとのこと。
  • Google翻訳よりも、音声の認識率が良いとのこと。

実際に使ってみた感想:

  • 日常的な英語1センテンスを日本語に正確に訳せます。日本語から英語への翻訳も正確です。
  • 地名も認識できるので、道に迷ったときにも使えます。
  • 海外旅行に携帯して十分に使えるレベルと思われます。ヨーロッパ旅行が楽しくなりそうです!
  • ハードウェアによる雑音のスクリーニング機能が付いているようで、スマホアプリ(音声&翻訳など)と比較すると、専用ハード面で機能的に優れていると考えられます(未実証)。

装置の作り:

  • ネットワーク経由で音声データをサーバへ飛ばし、翻訳データを表示するという作りになっています。接続しているネットワークの通信速度で翻訳スピードが変わってきます。
  • 約5,000円のSIMカードを利用しているとのことです。通信量を抑えるために、サーバからテキスト形式で翻訳データを受信し、テキストを音声化するのを装置が行っていると考えられます。

機械翻訳

日常会話の通訳は機械で肩代わりできるレベルに達したと既述しました。ビジネス分野での飜訳はどうでしょうか。機械翻訳は「意味の理解と解釈」が必要なため、AIの応用分野の中でも最高位に位置づけられ、それだけ奥が深い分野といえます。

株式会社ロゼッタ

  • 企業版:T-400
  • 個人向け:熟考
  • サンプルで展示されていた訳文は非常に高品質でした。ただし、ウェブ上のサンプルを見ると、専門用語は拾ってくれる一方、訳文の文法はそのまま納品するレベルには未到達で、改善の余地があります。
  • 飜訳をそのまま納品できるかは場合により、むしろ翻訳者がツールとして使うのに適しているとのことでした。
  • 機械翻訳は、自動化よりも省力化を優先すべきです。不完全なアウトプットで結局翻訳者の介入が必要になるよりも、専門用語をクリックすると対訳を手軽に検索・挿入してくれるような翻訳者支援ツールとして発展させた方がよいのではないかと感じました。

顔認証

第三次AIブームで格段に進歩した分野のひとつに、画像認識があります。学習によって「猫」を認識できるようマシンを教育したGoogleの実験など、この分野は日進月歩です。それに注目したのが中国で、国家全体の統制インフラの確立に活用しています。

(株)ソフトワイズ Face360

  • 中国製で、国を挙げて技術の発展に取り組んでいるためか、非常に精度が高いことが特徴です。役員は全員、中国の方だと思われます。会社概要
  • 顔認証とカード認証を組み合わせた「AIボール」が展示されていました。高度な技術と品質への拘りをイメージさせる、非常にカッコいいデザインでした!

感想:

  • 価格について質問したのですが、具体的な回答は得られず、現在はまだ検討中の様子でした。
  • 中国は新しい技術に非常に積極的で、その発展スピードには目を見張るものがあります。筆者がボストンに留学していた1988年〜1990年当時、ハーバードやMITのキャンパスは中国全土から選りすぐられた中国人留学生で溢れかえっていました。やがて帰国した彼らが、今の中国を牽引しているのでしょう。

音声認識

スマホでは既に広く普及した感がある音声入力。その応用分野をもっと広げようとする試みもありました。誰もが真っ先に思いつくのが議事録の自動作成でしょう。それに正面からチャレンジしたソリューションがこちらです。

(株)アドバンスト・メディア AmiVoice スーパーミーティングメモ

製品名そのままで、ミーティングの音声からメモを自動作成し、それを議事録にまとめることができるツールです。これがあれば弊社の議事録作成も半自動化できる…… と期待したのですが、実際に現場で使うには、まだまだ課題が多く残っていると感じました。

特徴:

  • 会議の発言内容を、フレーズごとにリアルタイムで書き起こしてくれます。
  • 音声も同時に録音し書き起こした文章にアタッチしてくれるので、内容をチェック可能です。
  • その中で、決定事項や重要発言をチェックして一括処理すると、議事録に変換してくれます。
  • ただしマイクが拾えるのは近くの発言者のみです。会議で使うには、マイクを発言者で使い回す必要があります。

感想:

  • Google Home や Amazon Echo の Far Field Microphone と組み合わせれば、実用化に一歩近づくのでは? 米国 Amazon は AVS(Amazon Voice Service)として、安価なハードウェアの提供も含めた SDK を販売しているので、活用を検討する余地があるでしょう。
  • 発言者の音声のクレンジングが課題です。環境ノイズを削除し、話者を特定する技術がまだ取り込まれていません。

前述の Amazon Machine Learning の一環で Amazon Transcribe という文字起こしサービスが 2017年11月29日 に発表され、低料金で利用できるようになっています。複数話者の特定や音声のクレンジングもサポートされ、日本語対応も始まったので、これを活用すればより高いレベルのサービスが構築できると思われます。

【参考ページ】
クラウドの音声認識APIはライターの「文字起こし」に使えるか? ライターたちが実際のインタビューの録音データで評価してみた

AIチャットボット

企業のウェブサイトで最近多く見られるようになったのが、自動で質問に答えてくれるチャットボットです。それにAIを活用すれば、まるで人間に質問するかのごとく、自然言語で対話しながら解決方法を知ることができるかもしれません。

エクスウェア株式会社
TalkQA という、IBM の Watsonを使ったAIチャットボットを展示していました。その能力を判断する時間は十分にありませんでしたが、試験的に導入し効果を評価しながら拡大していくには、初期導入やランニングコストなど、少々お高い印象を受けました。

特徴:

  • 初期導入費:65万円+10万円/100設問
  • ランニングコスト:基本使用料が17万円/月、追加学習が20万円/回

チャットプラス株式会社
業界最安値を謳った価格設定には拍手を送りたいです。AIと組み合わせると一気に価格が上がりますが、導入コンサルティングなどを受けなくてもユーザーが管理画面から機械学習をモデリングできるあたりが、これからのトレンドにマッチしていると感じました。

特徴:

  • 業界最安値、月額1500円から。10日間の無料トライアル有。
  • 機能は、上述のサイトで使われているので一目瞭然。
  • AI(IBM, Microsoftなど)との連携はエリートプラン(月額15万円)が必要。フリーワードによる自動回答をサポートし、AI技術者なしで管理画面を通じて機械学習させることができます。

AI スピーカー

Amazon の Echo に始まり、Google Home の参入で一気に応用分野が広がったAIスピーカー。あらゆるデバイスの音声フロントエンドとして、誰もが簡単に利用できるインテリジェント・インターフェースとしての活用が期待できます。今回の展示会では、その分野に注力したソリューションがほとんど見られず、斬新な活用例に巡り会えなかったのが心残りでした。

(株)アロートラストシステムズ
それに真剣に取り組んでいた数少ない企業のひとつです。
TalkBridge
Amazon や Google などのAIスピーカーを使って、新たなアプリケーションを構築・提供するサービスです。要件ヒアリング、基本機能の組み合わせとカストマイズ、そしてその実装と動作確認までをセットで提供しています。

特徴:

  • シンプルプラン:100,000円
    • 事例1: 売り場でオススメ商品の説明を無人で行います。
    • 事例2: ビジネスホテルで館内施設の簡易案内を自動で行います(自動販売機の場所など)。
  • ミドルプラン:200,000円~
    • 事例1: 料理レシピを手順に従って聞くことができます。ステップごとにレシピを読み上げてくれて、「つぎ!」と言うと、次のステップに移ります。
    • 事例2: 家電のよくある質問を音声で調べることができます(FAQや取説をデータ化して実現)。
    • 事例3: 家族間の伝言サービス。出るときに伝言し、家族が帰宅時にオンデマンドで再生してくれます。
  • カスタムプラン: ヒアリング後、別途見積り。

総括

  • 「AI」と書かれたブースが多かったのですが、実際は定型業務の単なる自動化やビッグデータ処理のレベルが大半でした。膨大で緻密な機械学習の末に、機械そのものが自律的に行動パターンを変えていくような知性を感じさせるソリューションは、ほとんど見られなかったです。
  • 自動化や機械学習ができるツール、サービス、コンサルティングなどは多く見かけましたが、ディープラーニングを手軽に利用できるように配慮した汎用的・本格的なものは見られませんでした。AmazonのAI開発プラットフォーム(Amazon Machine Learning )が先行している印象です。
  • 機械による自動通訳は、いよいよ実用段階を迎えた印象でした。一方でビジネス文書の自動翻訳は、まだまだ課題が多いようです。
    • 自動通訳は、日常会話ならば「もう通訳いらない!」くらいのレベル。世界各国の言語にワンタッチで対応できます。
    • 機械翻訳は、専門用語の登録・カストマイズなどで工夫は見られるものの、あらゆる場面で「自動」を実現するのは難しいようで、翻訳者による修正が必要となるケースもあるのではないでしょうか。
  • AIスピーカーを活用したソリューションに期待していましたが、出展は1~2社ぐらいしかありませんでした。米国では Amazon がAVS(Amazon Voice Service )と称した SDK プラットフォームを、さまざまな機器に組み込めるハードウェアと共に 展開していますが、日本ではまだ浸透していない模様です。
  • 80年代後半の第二次AIブームのまっただ中、人工知能の父と呼ばれたマービン・ミンスキー教授が毎週水曜日の夜に行った講義には、ハーバードと MIT のキャンパス中からあらゆる分野の専門家が集まりました。その後いったんは冬の時代が訪れましたが、四半世紀の時を経て新たなブレークスルーを迎え、昨今のAI技術の進歩には隔世の感があります。果たしてシンギュラリティーは起こるのかなど、これからも目を離せない分野です。最後にオススメ入門書を2冊、ご紹介しておきます。