もしも、イントリックスのことばがウイスキーであったなら
~ウイスキー基礎講座~
*以下の記述は、アナリスト坂本の趣味と調査と独断に基づくものです。内容の客観性および正確性を保証するものではありません。悪しからず。また、記事タイトルは村上春樹氏『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』へのオマージュです……
そもそもウイスキーとは?
ウイスキーという名称は、ラテン語の「命の水」を意味する言葉のゲール語訳「ウィシュケ・ベァハ」に由来するとされています。その原型となる穀物の蒸留酒は、15世紀ごろのアイルランドで飲まれていたとのこと。やがてスコットランドにも伝わりますが、18世紀にスコットランドがイングランドに併合されると、この蒸留酒を巡る環境が一変します。
イングランドから高い税金が課せられたスコットランドの人々は、役人の目を逃れるため、大麦を手近な泥炭(ピート)で燻蒸し、作った蒸留酒をシェリー樽の中に隠すようになりました。しばらくして樽から酒を出すと、ピートの香りと樽の香りが移り、えも言われぬ風味に! こうして、スコッチウイスキーが生まれたといわれています。
その後、主にアイルランドとスコットランドで作られるウイスキーの技術と魂(スピリット)は、アメリカ、カナダ、そして日本などに広がり、それぞれの地で独自の進化を遂げていきました。
どこが違う? スコッチやバーボン~地域による分類~
ウイスキーとして一くくりにされることもあれば、スコッチやバーボンなどと分類されることも。その違いについて概説します。
スコッチ:いわゆるウイスキーの王道
ウイスキーの王道といえば、スコットランドのスコッチでしょう。スコッチには、ピート由来の燻したような香りのするものが多いとされていますが、それも蒸留所や地域ごとに多様であり、とても一言で割り切ることができません。北海道と同じくらいの大きさしかないはずのスコットランドには、大小100以上の蒸留所があり、それぞれ個性のあるウイスキーを作っています。
アイリッシュ:ウイスキーの元祖
先に述べた通り、ウイスキーの元となった穀物の蒸留酒自体は、もともとアイルランドで作られたものであり、特に19世紀までは、むしろアイリッシュの方がメジャーでした。ところが後世に、アメリカの禁酒法やイギリスによる経済制裁などの理由で、シェアをスコッチに奪われることに。そんなアイリッシュ、原則としてピートを使わず、他とは異なる3回の蒸留を重ねる製造方法のため、スコッチやバーボンと比べ、柔らかな香りで飲みやすい傾向があります。
バーボン:実はフランス王朝から名付けられた
1789年、アメリカのケンタッキー州の牧師が作ったものが最初とされています。その名の由来は、なんとフランスの「ブルボン王朝」から。独立戦争でフランスが味方してくれたことにちなみ、ある郡が「ブルボン(バーボン)郡」と名付けられ、そこから出荷されたウイスキーが、いつしかバーボンと呼ばれるようになりました。スコッチと異なり、とうもろこしの比率が高いこと、熟成に使われる樽に内側を焦がしたオーク材の樽が用いられることなどが特徴です。もはやウイスキーよりもむしろ、「バーボン」という一分野とした方が妥当かもしれません。
ジャパニーズ:山崎、余市など、国際的評価がうなぎ上り
鳥井信治郎(サントリー創業者)や竹鶴政孝(ニッカ創業者)の努力により、日本でも蒸留所が設けられ、国産ウイスキーが販売されるようになりました。2001年にはニッカの「シングルカスク余市 10年」が、ウイスキーマガジンのコンテストで最高得点を獲得、2015年にはサントリーの「山崎シングルモルト・シェリーカスク2013」が、英ウイスキーガイドブック『ワールド・ウイスキー・バイブル』で世界最高のウイスキーに選出されています。
大手メーカーだけではありません。2017年には、ウイスキーマガジン主催の「ワールド・ウイスキー・アワード2017」で、ベンチャーウイスキー社の「イチローズモルト 秩父ウイスキー祭2017」が「シングルカスクシングルモルトウイスキー部門」の世界一に選ばれるなど、日本のウイスキーは近年、国際的評価を急上昇させています。
蒸留所の個性VSブレンダーの技~製造法による分類~
シングルモルトとブレンデッドは、ウイスキーの製造法の違い。圧倒的にメジャーなのはブレンデッドですが、シングルモルトにはシングルモルトなりの良さがあります。
シングルモルト
一つの蒸留所で、モルト(大麦麦芽)100%で作られたウイスキーのことを指します。蒸留所の個性が真正面から出ているのが特徴で、味わいや香りは、蒸留所によってまさに千差万別。ものによっては、同じウイスキーでくくるのがおかしく思えるほどの違いがあります。シングルモルトウイスキーは、そのまま販売されることもあれば、ブレンデッドウイスキーの材料に使われることもあります。流通量はブレンデッドの方がはるかに多いものの、個性を求めるウイスキーファンは、自分の好きなシングルモルトを探し続けることも少なくありません。
ブレンデッド
さまざまな蒸留所のシングルモルトウイスキーや、グレーンウイスキー(とうもろこしなどの穀物を主原料にしたウイスキー)をブレンドして作ったもの。ジョニーウォーカー、バランタイン、シーバスリーガルなど、一般にも知られたウイスキー銘柄の数々や、世界に流通しているウイスキーの多くもブレンデッドです。全体的な傾向は、シングルモルトと比べて、飲みやすいこと。各銘柄には香りや味の専門職“ブレンダー”が存在し、研ぎ澄まされた感覚で良質のウイスキーを世に出し続けています。
男は黙ってストレート――ばかりでもない飲み方、あれこれ
ウイスキーを水割りやハイボールで飲む人が多いかもしれません。でも、同じウイスキーでも、飲み方を変えると違った味わいに。いろいろ試してみてはいかがでしょう?
ストレート
ウイスキーの味や香りを楽しむには、個人的にはやはり、ストレートが一番だと思います。ただ、ウイスキーのアルコール度数は40度前後。食道や胃粘膜を傷つける恐れがあるので、チェイサー(お水)と交互に飲むようにしたいものです。
トワイスアップ
ストレートではきついけど、ウイスキーの本来の味や香りを楽しみたい場合は、トワイスアップがおススメ。作り方は簡単。ウイスキーと常温の水を、1:1で割るだけです。味や香りはそのままに、ぐっと飲みやすくなります。
ロック
大ぶりな氷にウイスキーを注ぐオンザロックでは、時間とともに溶けていく氷、少しずつ水と混ざり合い味わいを変えていくウイスキーを、ゆっくりと楽しみたいものです。氷やグラスにこだわってみるのもアリだと思います。
ソーダ割
ウイスキーのソーダ割、いわゆるハイボールは、暑い季節には嬉しいもの。気の合った仲間とワイワイやるときには、最適な飲み方です。ただ、ウイスキーによっては、せっかくの香りが飛んでしまうことも! ソーダ割に適したウイスキーを選びましょう。
水割り
ウイスキーを水で割っただけの単純な飲み方。それだけに、氷や水の質、ウイスキーと水の配分などに、こだわりが出る飲み方ともいえます。もしお気に入りのバーがあれば、バーテンダーにこだわりの水割りを作ってもらいましょう!
アナリスト坂本推奨、スコッチウイスキー3選
ウイスキーといえば、やはり王道はスコッチです。そこで、数あるスコッチウイスキーの中で、比較的手に入りやすく、かつ個人的におススメしたい3つをご紹介します。
グレンリベット12年
“すべてのシングルモルトの原点”と称されることもある、スコットランドはスペイサイド地区の王道といってもよいシングルモルト。シングルモルトでありながら、鼻腔に抜けていく香りのふくらみがまろやかで、風味のバランスが良く、比較的飲みやすいのが特徴です。ストレートやロックもよいですが、個人的にはソーダで割るのがおススメ。香りが華やぎます。
ラフロイグ10年
スコットランドの中でも、個性的なウイスキーで知られるアイラ地区。とりわけパンチの効いたシングルモルトウイスキー、ラフロイグが有名です。スモーキー、かつ、うがい薬を強烈にしたようなヨード香に満ちた強烈なフレーバーは、好き嫌いこそ分かれるものの、一度好きになるとハマってしまうこと請け合い。飲み方はロックで、時間と香りの変化を楽しんでみてはいかがでしょう。
ジョニーウォーカー黒ラベル
いわゆる「ジョニ黒」。ブレンデッドウイスキーの代表格で、かつての英国宰相チャーチルが愛飲したと伝えられています。洋酒の関税が高かった時代、日本では高級酒の代名詞でした。現在は、だいぶ手に入りやすい価格に。ストレートでたしなみつつ、ジョニ黒が高級酒だった時代に思いを馳せるのも、また一興です。
終わりに
アイルランドで生まれた「命の水」が、スコットランド、北米、そして日本の醸造家たちを刺激して世界中に広がっていく様子は、文化と文明の伝播といっても過言でないかもしれません。みんなでハイボールを飲むとき、友人とサシでロックグラスを傾けるとき、独りバーでストレートをあおるとき。ささやかな思い出や悠々たる歴史を含め、目の前のウイスキーのことを思うと、味わいが一段と深くなるかも。
それでは、皆さんの愉しいウイスキー生活に、乾杯!