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SaaS企業から学ぶ!
デジマ活用の雲を晴らす方法

BtoB
ゆるやか広報班 編集部
最近、BtoBメーカーからも「SaaS※1」利用に関するコンサルティングのお問い合わせが増えています。そこで、成長著しいSaaS企業が一堂に集う「SaaSway」というカンファレンスに参加。その最新動向の中に、BtoBメーカーのマーケティングにも役立ちそうなヒントがありましたので、今回はそのトピックをお届けします。

※1 SaaS(サース)とは…「Software as a Service」の略称。ソフトウェアを購入して利用するサービスとは異なり、インターネット経由で必要な機能を必要な分だけ利用するサービスのこと。従来のパッケージ導入型ビジネスモデルに対して、利用する企業側が自社システムを持たないこと(クラウド)や、必要な分だけを選択・利用し、継続的に課金されること(サブスクリプション)が特徴。

パネルディスカッション「今なぜ「エンプロイーエクスペリエンス」を考えるのか – SaaS時代の組織づくり -」。右から浅沼祥氏(パーソルプロセス&テクノロジー株式会社)、佐藤寛之氏(株式会社カオナビ取締役副社長COO)、冨士野光則氏(日本マイクロソフト株式会社)、堀江真弘氏(Resily株式会社代表取締役)。

BtoBメーカーとSaaS企業が抱える共通課題

言うまでもなく、BtoBメーカーの多くはサブスクリプション型のビジネスモデルであるSaaS企業とは、根本的に性質が異なります。しかし、抱えている課題においてはいくつかの似通った点があるように思います。

  • 強いつながりのある取引先はあるものの、新規の領域では取引先を増やせていない
  • 新製品の魅力が伝わりきらず、販売が伸び悩んでいる
  • 具体的な顧客ニーズを捉えにくいため、新製品の企画・開発の難易度が高い
  • エンドユーザーのニーズが、製品開発やマーケティング担当者に十分に連携されない

SaaS企業が取り組む3つの解決施策

とりわけ、上述の課題に対して、SaaS企業では3つの解決施策を行っていました。その取り組み例を紹介します。

1.サービスの特長を生かしたターゲティング

一般的にSaaS企業のサービスには、「水平展開型」「垂直展開型」という2つの特徴があります。前者は、どんな業界にも共通するビジネスプロセスに対して、システム化しても要件が顧客ごとにバラつかない展開方式を意味しています。たとえば、人事領域の場合、社員データベース・組織図・人事評価などへのニーズは基本的に似通っているため、1つのサービスが業界を超えて広く利用されます。

後者は、その業界に特化したビジネスプロセスに対応する展開方式を意味しています。たとえば、メーカーの生産管理に特化したサービスが挙げられます。メーカーごとに生産プロセスや業務プロセスに違いはあっても、購買管理・売上管理・出荷管理といった業務は共通しているため、1つのサービスで同じ業務群のシステム化をサポートすることができます。

成長しているSaaS企業は、自社サービスの特長を加味した上で、2つの展開型のフィールド内でマーケティング活動を行い、企業規模、業界、部門といったさまざまな観点から、効果的に商談相手となる候補を絞り込んでいました。

2. フレキシブルな集客施策

見込み客の“量”を求めれば“質”が下がり、“質”を求めれば“量”が下がるという集客施策のジレンマがあるかと思います。この問題に対して、SaaS企業ではマーケティングチームと営業チームが二人三脚で継続した営業活動を行うことで克服していました。

つまり、1.で絞り込んだ候補のうち、自社セミナーなどの集客施策の結果から判断して、マーケティングチームが見込み客リストを作成。営業チームはこのリストに基づいて営業をするわけですが、見込み客の“量”の確保はできていても、まだこの段階では “質”の面で粗削りです。ここからさらに、営業結果をマーケティングチームにフィードバックして“質”を吟味。その結果から集客施策をフレキシブルに調整することで、“質”と“量”を同時に担保していました。

3.「カスタマーサクセス」で継続した製品利用を促す

SaaS企業では、顧客の継続したサービス利用が売り上げに大きく起因することから、「カスタマーサクセス※3」という考え方が広く定着しています。今回のカンファレンスでは、このカスタマーサクセスのあるべき姿をテーマに、Box社のCEO・アーロン・レヴィ氏が登壇。そのスピーチは、「なるほど」と思わされる内容でした。一部、抜粋して紹介します。

※3 カスタマーサクセスとは…顧客に寄り添い、伴走することで成功体験のプランニングを実施すること。

――“プロダクトはカスタマイズしないほうが良い。カスタマイズしない方が顧客のためになる。シンプルであることが重要”
――“カスタマーセントリック(顧客中心主義)とカスタマーファースト(顧客第一主義)とは似て非なるもの。顧客目線の開発かカスタマイズ対応かは、全く意味の異なることである”

今回のカンファレスの目玉企画である、BOX社創業者アーロン・レヴィ氏(右)によるトークセッション。BOX社は、エンタープライズ向けクラウドストレージサービス世界トップシェア企業。

この言葉が意味するのは、ユーザーになってもらうための施策に偏らず、ユーザーになってもらった後を大切にすべきということ。つまり、過剰な個別のカスタマイズよりも、前述の1.と2.の方法で的確にユーザーニーズをつかみ、それを製品開発に反映することが何よりも重要だと、レヴィ氏は伝えたかったのだと思います。

ちなみに、サブスクリプション型のビジネスを行っているSaaS企業では、サービスの解約を回避するため、カスタマーサクセスチームが集めたユーザーの要望やクレーム、解約のきっかけなどを、時にユーザーから直接ヒアリングすることで、ニーズの本質をデータとして集約していました。

成果に繋がるデジタルマーケティング施策のために

デジタルマーケティングの取り組みに対して、「何から始めたらよいか?」と頭を抱えてしまうBtoBメーカーの担当者の方も多いのではないかと想像します。一方で、俯瞰視点が定まらない状態で大きな施策を試み、途中でその取り組みが頓挫してしまったこともあるのではないでしょうか。

そこで、SaaS企業が実践していたターゲティング、集客、カスタマーサクセスの3つのヒントをもとに、以下のような取り組み施策を洗い出すことから始めてみてはいかがでしょうか。

  • 既存顧客の業界や企業規模等の属性に基づいて、得意領域の分析・運用改善を見直す
  • セミナーや展示会などへの誘導を促進する、MAを活用したメール施策を検討する
  • 営業とマーケティング間で、部門を超えたコミュニケーションの頻度を増やす
  • 製品利用ユーザーの声をマーケティングやバックオフィスへフィードバックする機会を設ける

など

そして、それらに優先順位をつけ、小さな成功を積み重ねていくことをおすすめします。

成長しているSaaS企業がスタートアップ企業から上場企業へと成長できた成功要因として、このようにひとつずつ着実に小さな成果を重ねてきたからだとも言えるでしょう。