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ITコンサルタントが体現した、大規模プロジェクトにおける「PMOの勘どころ」

イントリックスのこと
松田直英
イントリックスのBtoBマーケティングブログでは、「PMOの役割とは?導入するメリット・デメリットについても解説」という記事で、PMO(Project Management Office)の役割やメリット等をお伝えしています。では、その業務における要点は一体どこにあるのでしょうか? 今回は、実際のプロジェクトでPMOとして活躍したITコンサルタントが、その「勘どころ」を解説します。

ITコンサルタントの仕事

イントリックスのITコンサルタント・松田です。「ゆるやか広報班」への寄稿は、文才無き身としては最果て並みに遠い場所ですが、がんばってたどり着きたいと思います。

さて、私たちイントリックスのITコンサルタントは、お客様のデジタルマーケティングを下支えするプラットフォーム(以下、デジマPF)を構成するITシステムのコンサルティングを行います。

上流工程にあたる「Web戦略の把握」にはじまり、中流工程の「要件の取りまとめ」「要件に応じたシステム構成案の策定」「ベンダーの選定支援」、さらにはベンダーマネジメント等も含めた「プロジェクト進行支援」を担当することが一般的です。

ITコンサルタントである私は2021年、とあるプロジェクトにPMOとしてアサインされました。PMOとは、複数プロジェクト・ベンダーにまたがる課題やリスクを先回りして可視化・把握し、俯瞰視点で調整・全体推進を行うプロジェクト全体の推進役です。本稿では、ITコンサルタントの視点から「PMOの業務を遂行するためのポイント」そして「PMOの勘どころ」をご紹介します。

PMO業務を遂行するための3つのポイント

私がアサインされたのは、約10年前に構築された現行サイトのリニューアルプロジェクト。コーポレートサイトのみならず、約3万点にのぼる自社製品サイトのコンテンツ刷新を行うというものでした。コンテンツ管理システム(CMS)のリプレイスや、他ベンダーのプロジェクトで並行構築されているPIM環境とCMSの連携も含まれており、2019年の始動から2年3ヶ月を経てリリースされました。

このプロジェクトにおいて、私が体感した「PMO業務遂行のポイント」は以下の3つです。

PMO業務を遂行するための3つのポイント

1. プロジェクト全体像の早期把握

今回のプロジェクトは、マルチベンダーによって進行していました。当然ながら、俯瞰視点を持ってマルチベンダーに横串を通すためには、プロジェクト全体像の早期把握が欠かせません。プロジェクトに途中から参加した私にとって、既存資料や前フェーズ担当者からのフォローアップをいかに精度高くキャッチアップできるかが着任当初の重要事項でした。

また、一般的に時間経過とともに情報鮮度は低下するため、まずはプロジェクトの大枠を把握することを優先しました。一度にすべてをきめ細かに追求せず、内容に応じてはプロジェクト進行とともに情報精度を高める、というような「状況の読み」と「ペース配分」がポイントでした。

網羅性を追求しすぎず、後回し可能なものはひとまず後回し

 

2. プロジェクトにおける「PMOの役割」の周知

「PMOが何をしてくれるのか?」への認識は、プロジェクトメンバー(お客様=クライアント、マルチベンダー、イントリックス)一人ひとりの間に大なり小なりの差異が存在します。このことから、まずはグレーゾーンのコントロールというPMOのコアとなる活動を集中的にアピールし、活動を周知する点が肝要です。

また、PMOはプロジェクト側の領域に大きく踏み込まないことが大切ですが、この点は柔軟な考えを要する部分でもあります。つまり、コミュニケーション力を駆使し距離を測りながら「意図して一線を超える」ことが必要な時もあるのです。

PMOの役割は、プロジェクトの「リード」にあらず「ガイド」にある

 

3. 伝わりやすい資料作り

資料を通じたコミュニケーションはどの職種でも行うことですが、プロジェクトに横串を通すPMOは関係者が一際多い役柄です。その中で、完全中立の立場からお客様やベンダー、イントリックスに対して考えを伝えるには、端的かつフラットでファクトベースの資料作りが重要になります。

PMOだからこそ「伝わる資料」が重要

 

お客様がコントロールしにくい要素は、PMOがケアする

ここまで「PMO業務遂行のポイント」を3つ挙げましたが、これらを踏まえた上での私なりの「PMOの勘どころ」をお伝えしたいと思います。結論から言うと、

お客様がコントロールしにくい要素は、おおむねすべてPMOがケアを行う

です。具体的には、お客様タスクの整理とその可視化が非常に大切な取り組みに当たります。

プロジェクト開始時に各ベンダーから共有されるマスタースケジュールやWBSには「お客様タスク」が含まれています。しかしこれは、お客様の詳しい事情をまだ把握しきっていない段階で盛り込まれる、あくまで想定レベルのタスクのため、以下のような種々のリスクをはらむ可能性はぬぐいきれません。

「お客様タスク」におけるリスクの種類とその一例

これらはプロジェクトQCD(クオリティ、コスト、納期)に少なからず影響を与える要素です。これらを考慮に入れた上で、お客様のタスクを整理、可視化し、管理運営を行うことで、プロジェクト全体のリスクが軽減され運行品質も格段に上がります。

今回アサインされたプロジェクトを振り返ると、私が集中的に工数を投じた取り組みは「リスク・課題の管理」です。

リスクや課題は、基本的にプロジェクトオーナーであるお客様と、イントリックスやマルチベンダーの間に生じます。それは、お客様の本業は「プロジェクトの先にあるビジネス目標の達成」にあるからです。お客様にとってプロジェクト管理そのものは主業務ではなく、お客様がビジネス目標の達成に集中していただくことが「PMOの勘どころ」と言えます。

ITコンサルタントの視点をPMO業務に取り入れる効果

イントリックスにお寄せいただく案件では、これまで個別ソリューションとして導入・活用されてきたWebサイト、CMS、PIM等を機能結合させ、ひとつのデジマPFとしてビジネス活用する取り組みが増加している傾向にあります。私がアサインされたプロジェクトもPIM・CMS連携という機能結合を要件に含むものでした。

機能結合を行い、ひとつの環境を構築するプロジェクトは、当然のことながら大規模化・複雑化して難易度が上がります。こういったプロジェクトにおいて、まずPMOはプロジェクト全体を見渡す俯瞰視点(マクロ視点)をもってプロジェクトを直接的/間接的に影響を与え、より良い方向にガイドすることを旨とするのは前述の通りです。

一方でITコンサルタントは、技術的要素を考慮(ミクロ視点)した上で状況を判断し、方向性を打ち出すことで、プロジェクトにおける成果物の品質向上を促すことを重要視します。

これら2つの要素を駆使しプロジェクト運営を行うことは、よりよい成果を得る一つの解決方策と言えるでしょう。即ち、技術的要素(特にトラブル関連)に対して技術的知見に基づいた的確な状況把握を行いつつ、俯瞰視点を掛け合わせることでプロジェクト全体への影響を抑え、正しい打ち手の選択を可能にします。

まとめ

昨今さまざまな企業や組織が取り組んでいる「デジタルトランスフォーメーション(DX)」には、ITというツールが必須です。

ただし、IT導入が「DX」ではありません。

ITを用いた企業/ビジネス変革が「DX」であって、IT導入だけでは単なる改善に留まります。改善は現在の延長線上にありますが、変革はこれまでのやり方を捨て、新しいやり方を取り入れる、痛みを伴う変化(リスクテイク)を指します。

例えば、1つのサイトリニューアルは改善にあたりますが、サイトリニューアルを含むデジマPF導入は変革と言えます。これまでマーケティング・営業組織それぞれが縦割り・非同期で行っていた業務が、デジマPFを導入することで連携・同期が必要となり、これまでの業務スタイルを手放す必要性が生じるからです。

こういったDXにおいてより良い結果を導き出すためにも、PMOを行うにあたり、俯瞰視点(マクロ視 点)と技術的要素(ミクロ視点)を兼ね備えることによって、お客様のビジネス課題を本質的解決に導くことが可能になるのではないでしょうか。

 

活用したキャリアや知識

欄外コラムとして、個人的にPMO業務を執り行う上で役に立ったキャリアや知識について紹介します。

ソリューション提案の経験

キャリアで積み上げていた、ソリューション提案にまつわる業務の経験が非常に役立ちました。ITを用いたソリューション提案において受注獲得を考えた場合、下記のようないくつかの確認/精査ポイントが存在します。

  • お客様のビジネス課題と解決策の精査
  • IT導入を意思決定して頂くためのお客様のキーマンの見極め
  • IT導入に向けた運用体制やITリテラシー/IT成熟度
  • お客様予算、予算承認の決裁サイクル
  • お客様のプロジェクト関与強度

「PMO業務を遂行するための3つのポイント」に記載した内容は、ソリューション提案において提案活動全体をコントロールする際の感覚に似ており、経験の転用が利き非常に助けられました。

プロジェクトマネジメント知識体系ガイド「PMBOK」

「PMOの勘どころ」については、「PMBOK」の知識が非常に役立ちました。古典的ではありますが、いかなる状況も体系的に捉え、それを俯瞰視し、解決方向性を導き出す点で折に触れ活用しました。古典であるがゆえの原理原則と言えます。

ITコーディネータの知識

お客様のビジネス視点の獲得には、ITコーディネータの知識が役立ちました。俯瞰的・体系的に物事を捉えることは常々意識するよう心掛けていますが、この点においてITコーディネータの知識体系とPMBOKはとても親和性があります。前者はビジネスプロセスを、後者はプロジェクトプロセスを俯瞰視、体系化して理解することにとても役立つツールで、これも折に触れ活用しました。