なお、DX投資促進税制の優遇措置は令和5年(2023年)3月31日までの2年間の時限措置となっているため、それまでに経済産業大臣による事業適応計画の認定を受けて、設備投資をしてから費用の支払いを済ませる必要があります。
DX投資促進税制が誕生した背景
2018年に経済産業省は「2025年の崖」と称して、DX化が進まないことによる経済損失に対して警鐘を鳴らしました。さらに、新型コロナウイルス感染症の流行により、DXを推進している企業とそうでない企業との間に大きな格差が生まれています。
こうした背景もあって、この状況を構造変革のチャンスと捉えた政府が、企業が抜本的なデジタル化を導入して「経営改革」や「ビジネスモデルの転換」を実施できるよう、企業の「DX推進を支援する」措置として創設しました。
DX投資促進税制の詳細
DX投資促進税制の対象となる「事業者」や「資産」について、2種類ある「税制措置とその割合」について、優遇措置が受けられる「適応金額の範囲」についてなど、一つずつ詳細を解説していきます。
DX投資促進税制の対象となる事業者
DX投資促進税制で優遇措置を受けられるのは「青色申告書を提出する法人(連結法人も含む)又は個人」となります。
なぜ、青色申告なのでしょうか。それは、青色申告をしている事業者には、DX投資で生じた費用の支払い、設備の減価償却といった記録が正しく残るためです。
なお、認定事業適用事業者であれば「業種・資本金規模」に問わず対象になるので、いわゆる大企業であっても優遇措置を受けられます。
また、DX投資促進税制を利用するには「DX認定」を取得しておく必要があります。
DX投資促進税制の対象となる資産
優遇措置の対象となる資産は、以下の「ソフトウェア」と「繰延資産」と「有形固定資産」の3つになります。
(1)ソフトウェア
新しく制作、あるいは導入したソフトウェア。製造現場などで使うロボットやIoTシステムなども含まれる。
(2)繰延資産
ソフトウェアの導入や装置の整備のために支出した費用のうち「繰延資産」にあたるもの。クラウドシステムの導入にかかる初期費用。
(3)有形固定資産
ソフトウェアの導入・製作する機械や装置、器具や備品を指し、ソフトウェアと連携して使用するものに限られる。
2種類の税制措置とその割合
DX投資促進税制では、以下のうち「いずれか一方を選択」して優遇措置を受けることができます。
税額控除は「3%」が基本となっていますが、自社グループ外の法人とデータ連携や共有をした場合は「5%」の控除を受けられるのも特徴です。
「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制」を同時に適用する場合は、双方合わせて20%までが上限になります。また特別償却を受ける場合は、投資した費用の「30%」が上限です。
【出典】国税庁「No.5925 カーボンニュートラルに向けた投資促進税制(生産工程効率化等設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)」
適応金額の範囲
DX投資促進税制の優遇措置を受けられるのは、投資額が「300億円以下」の部分についてのみ。300億円を超える分については、優遇措置の適用範囲外となります。
さらに、売上高の0.1%以上を投資していないと、DX投資促進税制の適応にはならないので注意しましょう。
また、先ほど触れた「カーボンニュートラル投資促進税制」の税額控除も同時に受ける場合は、DX投資促進税制と合わせて「法人税額の20%」までになります。
DX投資促進税制の適用期限
DX投資促進税制の適用期間は「2021年8月2日〜2023年3月31日」となってます。そのため、2023年3月31日までに事業適応計画の認定、課税の特例の確認がされ、さらに取得・製作した対象設備などを実際に使用する必要があります。
ただし、計画書や費用明細などの書類を提出しただけでは、特例措置が認められません。この点に注意が必要です。
また事業適応計画の認定を受けるまでにも約1ヶ月の猶予期間を必要とするため、早急に動き出した方が良いでしょう。
DX投資促進税制申請の要件は2つ
DX投資促進税制の優遇措置を受けるためには「デジタル要件(D要件)」と「企業変革要件(X要件)」の両方を、すべて満たさなければなりません。この要件を満たした上で事業適応計画を申請して、経済産業大臣から認定を受けます。
デジタル要件(D要件)
「デジタル要件(D要件)」を満たすには、以下の3つの要件をクリアする必要があります。
(1)データ連携
社内の既存データと、社外にあるデータ(他の法人や団体など)や新規取得したデータを連携する
(2)クラウド技術の活用
自社のクラウド技術、あるいはクラウド技術を用いたITサービスを使って、データの連携や仕組みづくりをする
(3)「DX認定」の取得
情報処理推進機構(IPA)が審査・認定している「DX認定」を取得する
この「DX認定制度」とは、2020年5月15日に施行された改正情報処理促進法で設置された制度で、DX推進に向けて優良な取り組みをしている企業として認定するものです。このDX認定を取得すると、DX認定事業者として公表されるだけでなく、税の優遇措置などが受けられます。
【出典】経済産業省:DX認定制度(情報処理の促進に関する法律第三十一条に基づく認定制度)
企業変革要件(X要件)
「企業変革要件(X要件)」を満たすには、以下の3つの要件をクリアする必要があります。
(1)生産性向上または売上上昇が見込まれること
計画期間内で、次の要件を満たすことが必要です。
- 2014年から2018年の平均を基準として、ROA(総資産利益率)を1.5%ポイント向上させる
- 売上高の伸び率:過去5年度の業種売上高伸び率+5%ポイント以上向上させる
(2)前向きな取り組み
情報技術事業適応の要件のうち、以下のいずれかを満たすことが必要です。
- 投資額に対する新商品等の収益の割合が10倍以上
- 商品等1単位当たりの製造(売上)原価を8.8%以上削減
- 商品等1単位当たりの販売費(販管費)を8.8%以上削減
(3)全社の意思決定に基づくもの
企業全体あるいは事業グループ全体の意思決定が反映された、取締役会などの決議文を添付する
DX投資促進税制の手続き
DX投資促進税制の優遇措置を受けるには、いくつかの手続きを経ていく必要があります。また、他の税制度よりも手続きに期間を要するので、DX投資をする実施する際には、日程的に余裕を持って進めていくと良いでしょう。
手続きの流れ
DX投資促進税制を利用するには、以下の流れで手続きをしていきます。
(1)DX認定を受ける
情報処理推進機構(IPA)に申請をして「DX認定」を受ける
(2)事前相談・事業適応計画の作成
予定しているDX投資が要件に合致するか否か、主務官庁に事前相談をする
(3)事業適応計画の申請
生産性向上や財務の健全性などの各種要件を備えた申請書を、主務官庁に提出する
(4)事業適応計画の認定
問題がなければ、主務官庁から認定書・確認書が発行される
(5)事業適応計画の実施
税制の適用期間内に、計画書に沿ったデジタル投資や取り組みを実施する
(6)税務申告
申告の際には、申請書(認定計画)の写し、認定書の写し、確認書の写しが必要
(7)事業適応計画の実施状況を報告
事業年度ごとに報告書を提出する(事業年度終了後3ヶ月以内)
手続き完了までにかかる期間
まず、DX認定を受けるまでに最大で3ヶ月程度かかり、そこから主務省庁への事前相談を開始してから正式申請するまでに1〜2か月ほど、さらに認定を受けるまでに1ヶ月程度を要します。ここまで来てようやく、事業適応計画書に沿ってDX投資を実施していきます。
最長のケースを想定するとDX投資ができるまでに半年かかる計算になるため、優遇措置を受けるには余裕を持った動き出しが必要です。
このように、DX投資促進税制を利用するための手続きには「かなりの期間」を要するため、注意しておきましょう。
DX投資促進税制が適応された企業の事業適応計画
それでは最後に、DX投資促進税制が適応された企業の「事業適応計画」について、要点を絞って紹介していきます。経済産業省の「事業適応計画認定案件」に記載されている37企業の中から、以下の3社をピックアップしました。
【出典】経済産業省「事業適応計画認定案件」
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