この新たな規制により、イギリスにおける全ての公共機関に対しては、下記2点の対応が求められます。
- アクセシビリティに関する声明を公表すること
- Webサイトのユーザー、アクセシビリティに関する問題を報告できるフィードバックカニズムを提供すること
アクセシビリティ要件を満たしていない組織、またはアクセシブルな形式で情報を作成・提供できない組織については、平等法(Equality Act 2010)と障害者差別禁止法(Disability Discrimination Act 1995)に違反しているとみなされ、罰則の対象になったり、訴訟を起こされてしまったりするリスクがあります。
③アメリカ
アメリカにおけるウェブアクセシビリティに関連する訴訟件数は多く、2023年には4,605件(連邦訴訟件数:3,086件、州訴訟件数:1,519件)の訴訟が起こされています。
過去にはAmazonやNetflix、ドミノピザやマクドナルドなどが訴訟の対象となったこともありました。日本でもニュースになったため、ご存知の方も多いかもしれません。
2015年には関連訴訟が100件未満であったことを踏まえると、直近10年で急激に訴訟が増加していることが分かります。
訴訟の対象となっているのは大企業だけではありません。実際のデータを見てみると、中小企業に対する訴訟事例が非常に多いことが見えてきます。
アメリカは訴訟大国としても有名ですが、ここまでウェブアクセシビリティ関連の訴訟が多い背景には次の2つの要因が関連していると考えられます。
- 法制度の適用範囲が広い
- 後述するADAという規制が、障害を持つ個人が企業に対して直接訴訟を起こすことを認めている
そのようなアメリカですが、障害者やアクセシビリティに関する法規制の現状はやや複雑で、複数の法規制が存在しています。ここでは、そのうちの3つについて紹介します。
- Section508(リハビリテーション法第508条)
Section508は電子および情報技術 (EIT) に関するアクセシビリティ要件を定めた法律で、障害者がITを使って社会参加できることを目的として1986年に成立しました。主に公的機関を規制の対象としています。
- ADA(Americans with Disabilities Act)
ウェブアクセシビリティ関連の法律として代表的なものの一つ。障害者が雇用や教育、公共施設の利用などの機会に平等にアクセスできるようにすることを目的として、1990年に成立しました。適用範囲が非常に広く、雇用環境や公共施設、交通機関や情報通信など、さまざまな分野に適用されています。
- ACAA(Air Carrier Access Act)
航空運送業界に関するアクセシビリティを規定する法律で、1986年に制定されました。
障害者が航空機や航空サービスを利用する際に差別されないようにすることを目的としたもので、障碍者が全ての航空サービスを安全かつ適切に受けられる権利を保護する規定が含まれています。航空会社のWebサイトにおいても、「WCAG 2.0」のレベルAA準拠が求められます。
ACAAの対象となるのは、米国なの空港に乗り入れる定員60名以上の路線がある米国内外の航空会社のWebサイトです。そのため、アメリカに乗り入れる日本の航空会社も対応が必須となっている点は注意が必要です。
④カナダ
カナダのオンタリオ州は、世界で初めてアクセシビリティの目標と期限を定めた特定の法律を制定した州です。その意味では、カナダはウェブアクセシビリティの先陣を切ったエリアといっても良いでしょう。
カナダにおけるウェブアクセシビリティ関連の法律として有名なのが、AODA(Accessibility for Ontarians with Disabilities Act)です。AODAは、障害を持つ方に対する差別をなくし、オンタリオ州をよりアクセスしやすいエリアにするという目的で、2005年に定められました。
AODAは、次の5つの分野においてアクセシビリティ向上を目指しています。
- 顧客サービス基準(Customer service standard)
- 情報通信規格(Information and communications standard)
- 輸送基準(Transportation standard)
- 雇用基準(Employment standard)
- 公共空間のデザイン基準(Design of public spaces standard)
AODAはアメリカのADAと同様に非常に適応範囲が広く、公的機関や民間企業が対象となっています。また、業界や組織規模によって適用される要件に差はありますが、原則としてWCAGのレベルAAに準拠することが求められています。
カナダのアクセシビリティへの取り組みとしてもう一つ押さえておきたいのが「The Accessible Canada Act(the Act)」です。これは、2040年1月1日までに、バリアのないカナダを構築することを目標としています。
⑤オーストラリア
最後がオーストラリアです。オーストラリアでは、オーストラリア連邦の法律であるDisability Discrimination Act 1992 (DDA)が代表的です。DDAは雇用、教育、商品やサービスの提供などの分野で障害のある個人を差別することを違法としており、WebサイトやECサイトなどのオンラインサービスを含むすべての個人および組織に適用されます。
オーストラリアのWebサイトは、DDAまたはWCAGレベルAA標準の4つの基本概念に準拠することが求められます。4つの基本概念とは、Perceivable(知覚可能)・Operable(操作可能) ・Understandable(理解可能)・Robust(堅牢)です。
この他にもオーストラリアでは、差別に関する苦情を調査し、問題を解決するための措置を講じる権限を持つことにより人権を促進する役割を担う「Australian Human Rights Commission Act 1986 (AHRC Act)」や、ウェブアクセシビリティの向上を目指す国家戦略「National Tradition Strategy(NTS)」などもあります。オーストラリアに事業を展開する企業は、これらの法整備についても押さえておくと良いでしょう。