BtoBマーケティングコラム PMOの勘所と素養の真髄 —いまWebプロジェクトで注目されるPMOに求められるものとは【前編】(松田 直英)

2023年6月27日

PMOの素養と勘所を深掘りするために

本稿では、現代のWebプロジェクトにおいて、その重要性が年々増しているPMOの素養と勘所について深掘りして解説していく。

PMOを検討中の方に向けて、プロジェクト成功への正しい理解と導入の実現を目指し、長年PMOとして数々のプロジェクトを支援してきた筆者の経験からPMOの真髄に迫っていきたい。

大規模化・複雑化するBtoB企業のWebプロジェクト成功の一助となれば幸いである。

PMOとは

まずはPMOの概要についておさらいしておこう。

PMOとは、Project Management Officeの略で、企業等における個々のプロジェクトの支援や管理を横断的に行う組織または機能をいう。

昨今のサイトリニューアルに代表される規模が大きなプロジェクトは、関わる関係者や参加メンバーが増えるぶん、難易度も高まるのが相場である。

そうした場合に、PMOはプロジェクト責任者であるプロジェクトオーナーやプロジェクトマネージャー(PM)をサポートしながら、プロジェクトの一貫性や効率性を向上させる役割を果たす。

PMO(Project Management Office)のイメージ

米国のプロジェクトマネジメント協会(PMI:Project Management Institute)のナレッジをまとめたガイドブック・PMBOK®(Project Management Body of Knowledge)には、プロジェクトマネジメントの代表的な資格として、PMP(Project Management Professional)やPgMP(Program Management Professional)といったものが定義されている。

戦略を基本構想に落とし込んだポートフォリオに対して、PMPは単一プロジェクトのマネジメントに特化し、PgMPは複数プロジェクトをプログラムとして統合的にマネジメントするスキルだ。

PMOが複数プロジェクトに横串を通してプロジェクト全体をコントロールする立場にあることから、PgMPに近い存在と言えるだろう。

図1:PMPとPgMP

PMOの定義

PMBOK®では、PMOの役割と責任を次のように定義している。

ここでいう「マネジメント構造」は、プロジェクト体制、組織内の部署やチームなどをイメージするといいだろう。PMOは「標準化」と「共有の促進」を重要な役割とし、PM支援やプロジェクトからのデータ・情報の統合、ポートフォリオにおける戦略目標の達成評価といった幅広い責任を担うのだ。

PMO型別機能概要

PMOの役割は、プロジェクトの管理やPMに対するリーダーシップ強度の度合いによって、「支援型PMO」「コントロール型PMO」「指揮型PMO」の3つのタイプに分けられる。それぞれのタイプについて詳しく見ていきたい。

支援型PMO

支援型PMOは、プロジェクト内の各組織やメンバーの業務サポートが主な役割である。つまり、各チームの業務を支援する形でプロジェクトを推進することになる。具体的には、打ち合わせスケジュールの調整や議事録作成の支援、商品やシステムのマニュアル作成などの支援、資料テンプレートの提供、ベストプラクティスの提示、トレーニングなどである。

このタイプのPMOはプロジェクト特性に関する知見保有者であり、オブザーバーとして間接的にプロジェクトオーナー/PMに対してアドバイザリーを行う。

PMに対するリーダーシップ強度は最も弱く、伴う責任も低いことから、プロジェクトオーナー/PMの自主性を尊重した形態であり、プロジェクトに対する権限はほとんど持たない。

プロジェクトオーナー/PMのマネジメント能力やプロジェクトメンバーのスキルが十分と判断できる場合に、PMOは支援型の立ち位置でプロジェクトに関与する場合が多い。

図2:支援型PMO

コントロール型PMO

管理型とも呼ばれるコントロール型PMOは支援型と同様に、資料テンプレートの提供、ベストプラクティスの提示、トレーニングなどでPMを支援するが、支援型に比べてより詳細な部分にまでプロジェクトに関与する。支援型を間接的な支援とした場合、コントロール型は中立的な支援と言えるだろう。

たとえば、プロジェクトマネジメントの枠組みや方法論の採用、特定テンプレートやフォームおよびツールの指定などが挙げられる。

さらには、ガバナンスの枠組みにおける法規制の適合性を確認するケースもある。このタイプのPMOは、プロジェクトオーナーやPMのみならず、プロジェクトを構成する各チームにもアドバイザリーを行い、さまざまな手段を通じてコンプライアンス(支援内容の強制)を要求することになる。

PMに対するリーダーシップ強度は支援型より強いことから、プロジェクトオーナー/PMのマネジメント能力やプロジェクトメンバーのスキルがまだ十分ではないと判断できる場合に、コントロール型が採用されるケースが多い。

図3:コントロール型PMO

指揮型PMO

3つのタイプの中で、もっとも権限が付与されているのが指揮型PMOである。プロジェクトに直接関与し、PMやプロジェクトメンバーの指揮を執る。そのため、手法の提示やトレーニングを実施するだけでなく、データや情報の分析、会議でのファシリテーションや討議推進といったPM支援まで行う。

PMOのタイプの中では最も強いリーダーシップを発揮しながらプロジェクトを牽引することになるため、場合によっては成果物責任が伴う。特に経験の浅いPMやスキルに不安があるPMの場合に採用されることが多く、指揮型には豊富なPM経験と高度な専門スキルが求められる。

DX推進、サイトリニューアルやシステム構築案件プロジェクトの大規模化・高度化、複雑化、企業におけるIT人材不足といった大きな時代の流れの中で、PMOが注目を集めている要因となっているのがこのタイプである。

図4:指揮型PMO

PMO業務機能と5つの機能グループ

PMOの業務機能は、以下の5つの機能グループとそれに属する18の業務機能に分けられる。

図5:PMOの5つの機能グループとそれに属する18の業務機能(出典:PMI日本支部資料)
A.プロセス資産管理 組織としてのプロジェクトの実行方針や標準の策定・改善、PMツールに関する資産の管理、PM技法の収集・共有を担当する。
B.パフォーマンス管理 ガバナンスの確立、リスクマネジメントの実施、PM支援の提供、ベンチマーキングの実施を通じて、プロジェクトの進捗状況を監視・レポーティングし、目標の達成を支援する。
C.情報管理 知的資産の管理・活用、教訓の収集・共有、プロジェクト情報の収集・整理・共有を担当。プロジェクトの知識や経験を活かし、教訓を次プロジェクトに反映させるための支援を行う。
D.人財管理 PM人事の計画・運用、PMコンピテンシーの評価・向上、PMトレーニングの実施・評価、PMコミュニティの運営を通じてPMの人材育成を支援する。
E.組織管理 PM組織の適切な構造の設計・運用、ロールの明確化・管理、組織の成熟度の評価・向上を通じて、組織全体での効果的なプロジェクト形態を管理する。

PMO憲章とは

PMO憲章とは、PMOが組織内で遵守すべきルールやガイドラインをまとめた文書をいう。言い換えれば、PMOの要件定義書のようなものだ。PMOは、業務の目的や機能上の責任、権限など、プロジェクトマネジメントのガバナンスを明確化するためにPMO憲章の策定と周知を行う。

またPMO憲章には、PMOが組織の戦略目標を達成するためにどのように貢献するべきかが示されている。そのため、PMOが組織全体のプロジェクト管理のリーダーシップを担い、一貫したアプローチでプロジェクトチームを支援・管理するための指針となる。

PMO憲章の発行

PMO憲章の発行は、プロジェクト開始までに周知し、コンセンサスを得ることが望ましい。なぜなら、PMO憲章を発行することで、PMO自身の足場固めと、影響力を明確にした上でプロジェクトに参画できるからだ。具体的な周知はプロジェクトキックオフの場で行うのが一般的と言える。

つまり、発行したPMO憲章で定めたポリシーを遵守してプロジェクトマネジメントを行うことは、組織からの十分な支援を受けられることを意味する。日本企業でのPMO憲章の発行はまだ珍しいが、米国企業ではプロジェクト憲章と同じくらい当たり前になっている。

PMOとPMの違い

次に、よく混同されるPMとの違いについて、「スコープ」「QCD」「PJ目標」のプロジェクト管理の視点から紹介しよう。

スコープ視点におけるPMOとPMの違い

PMOはプロジェクト全体を管理・統括する役割であることから、プロジェクトのスコープや方向性を管理し、組織全体でのプロジェクトの一貫性や標準化の確保が対象となる。

一方、PMは単一プロジェクトを推進するプロジェクトマネージャーであることから、特定プロジェクトのスコープや目標の管理が対象になる。

つまり、PMOは複数プロジェクトに横串を刺したプログラムを俯瞰し、統括的な管理を行うのに対し、PMは担当プロジェクトのみのスコープを具体的に管理する役割を果たす点が大きな違いだ。

QCD視点におけるPMOとPMの違い

PMOはポートフォリオを正しく理解し、成果物の品質、コスト、納期を総合的に管理する。そのために、品質管理や品質向上の取り組みを支援し、コスト管理や予算の見直し、リソースの最適化を行い、納期を達成するためのスケジュール調整を行う。

一方、PMは担当プロジェクトにおける成果物の品質、コスト、納期のみが対象となる。そのため、担当プロジェクトの進捗状況のモニタリングや品質管理、コスト管理、スケジュール管理を担い、チームの指揮を執りながらプロジェクトを推進する役割を担う。

PJ目標視点におけるPMOとPMの違い

PMOはプログラム目標を正しく理解し、それに基づいてプロジェクトの選定や優先順位付けを行う。そのため、成果物によるビジネス成果/目標を常に意識し、プログラムの最適化や効果的な運営をコントロールする必要がある。

一方、PMは担当プロジェクトにおけるPJ目標に向けた成果物の実現を推進することに専念する。そのために、PMはチームをリードし、プロジェクトのリスク管理や課題解決を行い、PJ目標の達成を目指す。

まとめ

PMOとPMでは、プロジェクト管理の視点での差異はない。しかし、複数プロジェクトを統括管理し、組織レベルでの目標達成に責任をもつPMOと、単一プロジェクトの管理・実行を行うPMとでは、コミット対象は大きく異なる。責任分界点も違うことから、PMOには契約履行とグレーゾーンのバランス感覚が求められる。

リニューアルプロジェクトにおける管理の考え方

大規模なサイトリニューアルプロジェクトを例に、PMOのスケジュール管理の考え方を見ていきたい。調査/戦略からはじまり、要件定義、設計、構築、移行と進み、ローンチ後の運用・保守までの一連の流れを以下の矢羽根で表した。

前述したPMOのタイプによって関与度合いは異なるが、主なスケジュール管理の着眼点としては3つ挙げられる。次項より詳しく解説していこう。

著者プロフィール

松田 直英
イントリックス株式会社 ITコンサルタント

独立系SIerで長年IT業務全般に従事した後、2020年にイントリックスへ入社。
オープン系システム開発、IT運用全般、自社の事業戦略/企画にも携わる。中でもパッケージ商材を用いたソリューション提案を得意とする

関連情報

BtoB企業のデジタルコミュニケーションを総合的に支援しています

BtoB企業に特化したサービスを提供してきたイントリックスには多くの実績とノウハウがございます。現状のデジタル活用の課題に対し、俯瞰した視点でのご提案が可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。

お問い合わせ

デジタル活用 無料オンライン相談会

BtoB企業のデジタル活用を支援してきた各分野の経験豊富なコンサルタントが、マクロな調査・戦略立案からミクロなデジタルマーケティング施策まで、デジタル活用の悩みにお応えします。

無料オンライン相談会
概要・お申し込み

BtoBデジタルマーケティングのお役立ち資料

BtoB企業向けにデジタルマーケティングの最新情報をホワイトペーパーとしてご提供しています。

資料ダウンロード
INTRiXメールマガジン

セミナーやコラム情報をお届け

ご登録はこちら