BtoBマーケティングコラム PMOの勘所と素養の真髄 —いまWebプロジェクトで注目されるPMOに求められるものとは【後編】(松田 直英)

2023年7月7日

リニューアルプロジェクトにおける管理の考え方

後半では、大規模なサイトリニューアルプロジェクトを例に、PMOのスケジュール管理の考え方を見ていきたい。

調査/戦略からはじまり、要件定義、設計、構築、移行と進み、ローンチ後の運用・保守までの一連の流れを以下の矢羽根で表した。

前述したPMOのタイプによって関与度合いは異なるが、主なスケジュール管理の着眼点としては3つ挙げられる。次項より詳しく解説していこう。

図1:3つのスケジュール管理の着眼点

1.ローンチに向けたマクロな進行

サイト制作がスタートし、工程が各論に入っていくとプロジェクト目標がおざなりになってしまうことも珍しくない。そのため、調査/戦略フェーズからWebガバナンスやプロジェクトスコープの定着に重きを置き、マクロな視点で進行をガイドすることが重要となる。

特に、プロジェクト全体での「リスク/課題管理手法」の確立と定着、そしてPDCAサイクルの支援に注力したい。現在の事実に基づき、3ヶ月~半年先を見越し先回り対応を実施していくことになる。"先回り対応"とは主にプロジェクト進行上の抽象箇所の具体化をさし、タスク分解/役割分担/期限設定が挙げられる。

2.ローンチに向けたミクロな進行

制作工程が終わり、数か月後にローンチを控えた段階になると、マクロな粒度の課題はすべて解決、もしくは対応方針が確定しているはずだ。これ以降はローンチに向けたミクロな進行が求められていく。

つまり、この段階になると「誰が何をいつまでに実施するか」が明確になっているため、PMOはそれらが遅延なく守られているかを精緻化し、個別課題のあぶり出しと対応完遂をシビアにチェックしていかなければならない。

3.ローンチ後準備

プロジェクトオーナーの目的は、プロジェクト成果の摘み取りにある。当然、ローンチ後の運用・保守についても綿密にプロジェクト内で練られている必要があるだろう。

たとえば、新しいCMSを導入した場合、オペレーションミスなどの問題を想定したリカバリ設計や、操作スキル向上のための教育方針など、継続的改善による運用定着化をプロジェクトオーナー目線で示唆し、ローンチ後準備を進めておくことが重要となる。

PMOの「素養」と「勘所」

ここまでPMOの定義や果たすべき役割、PMとの違いなどを詳しく見てきた。では、それらを達成しうるPMOの「素養」と「勘所」とは一体何なんだろうか。

長年プロジェクトでPMOを担ってきた立場として、実際の現場で求められる「素養」と「勘所」について、深掘りしていこう。

求められる素養

筆者が考えるPMOに求められる素養は、「厳正中立」「キャッチアップ力」「コミュニケーション力」である。俯瞰視点によって正確な情報収集と状況把握を行い、プロジェクト全体や関係者をリードする方向性を判断することが求められる。

図2:求められる素養イメージ

厳正中立

PMOに求められる厳正中立は、俯瞰視点でプロジェクト全体を把握・管理し、利益や影響を客観的に判断することをいう。それにより、ポートフォリオの戦略目標に合致したプロジェクト選定やリソースの最適化を図っていかなければならない。

キャッチアップ力

PMOに求められるキャッチアップ力は、プロジェクト横断的なファクトベースの正確な情報収集をもとに現時点最新の状況情報を把握/理解する能力をいう。それにより将来発生するであろう事象を想定し、戦略的判断を下していく事になる。

コミュニケーション力

PMOに求められるコミュニケーション力とは、正しくキャッチアップした情報とビジネス視点を加味した質の高い会話とコミュニケーション量の多さで成り立つ。プロジェクトを適切にマネジメントし、リーダーシップを発揮するための重要な素養であり、円滑なコミュニケーションを通じて、スムーズな情報共有や合意形成が可能になる。

勘所① コミュニケーションを駆使し、ポテンヒットを拾い続ける

PMOの勘所でもっとも重要なポイントは、コミュニケーションを駆使して、プロジェクト内に発生するポテンヒットを拾い続けることである。では、トラブルのタネとなるポテンヒットはどこに発生するのか、ポテンヒットを確実に拾うためのコミュニケーションテーマとは何を指すのか。詳しく見ていこう。

1.ポテンヒットの発生場所

プロジェクトオーナーを中心に、ステークホルダー、配下ベンダー、さらには各ベンダー間にもコミュニケーションの接点が存在する。そのコミュニケーション上で、伝達・共有の抜け漏れや曖昧な会話がされると、ポテンヒットが発生する。さらに言えば、各組織内部も同様であり、発生場所は至るところにあると言えるだろう。

まさに、プロジェクトマネジメントにおいて、PMやPMOがコミュニケーションに費やす時間が90%と言われる所以である。

ポテンヒットの放置は、QCD(品質・コスト・納期)に大きな影響を与えてしまう。そのため、PMOは常にアンテナを張って厳正中立な立場から正確に状況をキャッチアップし、プロジェクトの目的を見据えた冷静な判断を下す必要がある。

図3:ポテンヒットの発生場所

2.コミュニケーションテーマ

ポテンヒットはコミュニケーションロスがきっかけで発生するケースが多いことから、フォーカスすべきテーマは「プロジェクトを前に進めるために必要“以外”のコミュニケーション」と言える。“以外”としたのは、ベンダーの目的が担当プロジェクトの成果物を作り上げることにあり、それ以外への注意が薄れてしまうことが頻繁に見られるためだ。

その代表例が、分かりきっていることへの認識のズレや変更管理といったルールである。打ち合わせの中で、仕様変更や追加機能の話になり、十分な議論がされないうちにベンダーが安請け合いしてしまう場面は珍しくない。

PMOは、戦略や大方針との整合性を確認し、ミスコミュニケーションを未然に防ぎながら、本来あるべきプロジェクトの方向にリードしていかなければならない。

「ミスコミュニケーション」により「ロス」が生じる

ミスコミュニケーションとは、情報を伝える側と受け取る側に、認識の相違が起こっている状態を指す。「きちんと話したはずなのに正しく伝わっていなかった」「指示どおりに行動したはずなのに誤りだと言われた」といった状態がコミュニケーションロスを生んでしまう。

コミュニケーションロスとは、ミスコミュニケーションを原因として生じる損失やミスやトラブルをいう。「説明が不十分で、誤った資料を作成した」「スケジュール変更がメンバーに伝わらず、プロジェクト進行が遅延した」といったケースである。

このような結果に陥らないためにも、コミュニケーションの質と量が重要なのだ。つまり、分かりきったようなことであっても言葉に乗せて会話をしなければいけない、ということである。

勘所② 厳格な視点で、実行実現性にこだわる

プロジェクトがうまくいかない原因は、それ自体が絵空事である場合が多い。よって、「誰が何をいつまでに」を厳格に突き詰め、実行実現性を高めることがプロジェクト成功の鍵を握る。

計画が可視化されているか?

まず注目すべきは、計画がスライドなどで明らかになっているかという点である。稀に自分のスコープ内でなんとなくプロジェクトをスタートさせた結果、何度もリスケするといったケースが見受けられる。なぜこのようなことが起こるのか。

原因のひとつに、プロジェクトオーナーのマネジメントに関する知識・経験の浅さがある。そもそも彼らはプロジェクトマネジメントのプロではない。そのため、プロジェクトが大規模であるほど計画は各論に陥りやすい。プロジェクトの進みを鈍化させないためにも、計画が可視化されているかは重要な点である。

計画に実行実現性はあるか?

次に、可視化された計画の物理的な実現性について考える必要がある。たとえばタスク開始のタイミングや担当者は決まっているか、担当者のスキルは足りているかなどだ。計画の実行実現性について、会議体等でチェックし続けなければならない。

また、あるべき論でいえば、プロジェクト発足時にメンバーのスキルは必要充分でなければならないが、当然そうしたケースばかりとは限らない。プロジェクト進行中に予算やリソースなどの体制補強をしながら、実行実現性を継続的に確保していくことも重要になる。

実行実現性が精神論ではないか?

実行実現性を管理する3つ目のポイントは、計画が精神論に基づいていないかを見定めることである。すでにバイネームでプロジェクト体制が構築されている場合でも、プロジェクト目標に照らし合わせた際に非現実的な場合があるためだ。

実際に現場での実行が可能であるかを検証し、リスクや課題を見落とさずに把握することが重要となる。これにより、計画の実行中に予想外の困難が生じた場合にも、素早く対処し、プロジェクトの進行をスムーズにすることができる。

勘所③ プロジェクト断面の、ファクトベースによる状態可視化にこだわる

PMOは、プロジェクトの現状を常に俯瞰しながら、客観的に問題・原因・リスクを可視化し、周知する責任を担う。次項より実例をもとに具体的なアプローチ方法を解説していく。

ファクトベースによる状態可視化とは

ファクトとは、スケジュールの遅延やコミュニケーションロス、担当者のスキル不足といった事実を指す。状態可視化とはそうした事実に対して、発生原因や考えられるリスク/課題をドキュメント等で合理的に説明することをいう。

Backlog等のタスク管理ツールを活用し、誰もがいつでもプロジェクト全体を簡便に俯瞰できる状態にしておくなどのアプローチが一般的である。

実例その①「プロジェクト断面のサマリー」の例

現在における各社のステータスや期限といったプロジェクト断面をスライドにまとめることが有効である。ポイントは複数プロジェクトに横串を通し、網羅的に可視化することだ。

以下の例では、「移行における実行実現性の確認」と「詳細サイトマップの最終確定」が急務であり、Ph.1ローンチ時の品質低下とプロジェクトオーナー部門におけるローンチ後の負荷増大・集中がリスクとして周知されている。

図4:プロジェクト断面のサマリーの例

実例その②「プロジェクト急所箇条書き」の例

前述の「プロジェクト断面のサマリー」を踏まえ、プロジェクト進行上の急所を深刻度順に箇条書きでまとめておくこともおすすめだ。ここでは、文字の大きさや色で強弱をつけながら、ファクトベースで粒度を合わせて簡潔に表すことが大切になる。

「プロジェクト横断のサマリー」と合わせて作成することで、問題・原因・リスクがよりクリアとなり、関係者への周知に役立つだろう。

図5:プロジェクト急所箇条書きの例

実例その③「プロジェクト断面イメージ化」の例

最後に、「プロジェクト断面のサマリー」をベースライン(元の計画)に落とし込んだ時系列のタスクをイメージ化した2つのスライドを作成しておきたい。

1つ目は、過去ある時点におけるローンチ期限から逆算した実施必要タスクの相関関係を示す「過去想定計画(ベースライン)」である。リスク管理の観点から、計画見直しの最終判断時期を仮設定することがポイントになる。

2つ目は、「過去想定計画」通りに進捗していない実態に基づき再度ローンチ期限から逆算して導き出した「見直し後計画」である。ただし、各社の工数圧縮が伴うため、最善スケジュールというよりは事実の具現化という意味合いが強いと言える。

PMOはこの2つのスライドによって、進行の難易度を周知し、プロジェクトオーナーやPMに対して実行実現性を追求していくことになる。

図6:プロジェクト断面イメージ化の例(過去想定計画)
図7:プロジェクト断面イメージ化の例(実態踏まえた計画)

実例その④「スケジュール細分化」の例

「プロジェクト断面イメージ化」を作成する際に、「リスクチェックポイント」を明示しておくと良いだろう。遅延が発生している場合、現時点でチェックしなければ、状況をさらに悪化しかねない要因を周知するためだ。

短期間であっても計画的な進め方を例示し、その例示によって困難性やミッションクリティカル性を共有することが大切になる。

図8:「リスクチェックポイント」の例

実例その⑤「リスク可視化」の例

「スケジュール細分化」に加え、「リスク可視化」の明示も欠かせない。

つまり、ローンチ延期の可能性がある場合、実際に遅延した場合に発生するリスクを可視化しておくのだ。

このようにPMOには、俯瞰視点でのプロジェクト全体の管理と、あらゆるアプローチによる事実の断片の積み重ねが求められる。この繰り返しにより、プロジェクト内で共通認識として根付かせていく。

図9:「リスク可視化」の例

PMOの素養と勘所の真髄

プロジェクト成功の重要な推進要因は、プロジェクトオーナーの積極的関与にある。これまでにご紹介したPMOに求められる「素養」「勘所」は、まさにその関与度を強めていくために欠かせない要素、つまりは“真髄”と言っても過言ではない。

まとめ

プロジェクトにおいてPMOが担う役割は多岐にわたり、それらを実現する上で必要な素養や勘所には高い専門性が求められることがお分かりいただけただろうか。

筆者は、あくまでもPMOはプロジェクトオーナー/PMの伴走者であり、ステークホルダーやベンダー間を媒介する黒子のような存在だと考えている。あるべき姿で言えば、プロジェクトオーナーやPMがプロジェクトマネジメントを深く理解し、知識と経験を重ねていくことだが、彼らの主戦場がWebガバナンスや戦略立案にあることからも、決して容易なことではないと想像する。

BtoB企業においてデジタルマーケティングの重要性が高まる中で、プロジェクトはさらに大規模化・複雑化していくだろう。そうした時代の潮流から鑑みても、PMOの役割や責任は今後ますます大きくなっていくと確信している。

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著者プロフィール

松田 直英
イントリックス株式会社 ITコンサルタント

独立系SIerで長年IT業務全般に従事した後、2020年にイントリックスへ入社。
オープン系システム開発、IT運用全般、自社の事業戦略/企画にも携わる。中でもパッケージ商材を用いたソリューション提案を得意とする

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