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BtoBマーケティングコラム 脱・The Model! 製造業のデジタルマーケティング組織は営業とより連携するステージへ
2024年1月18日
製造業のデジタルマーケティング組織が抱える課題
デジタルマーケティングに本腰を入れる製造業の姿が飛躍的に増加して数年が経ちました。各社のデジタルマーケティング組織(以下、デジマ組織と表記)は、立ち上げ時とは異なる新たな課題に直面しています。
本格始動から数年経ち課題が顕在化
製造業でデジタルマーケティングが加速したきっかけが、2020年から流行した新型コロナであったことは周知の事実です。対面営業ができない状況を余儀なくされ、デジタルマーケティングに注力するようになった製造業が増えました。
この世界的なパンデミックを機に立ち上がったデジマ組織は、内部体制を少しずつ整えながら、数多くの施策に打ち込んできたことかと思います。
一方、本格始動から数年が経ち、さまざまな課題が顕在化してきているようです。特に営業が見積・提案をして受注が決まる業態の製造業において、当初は「まずは学ぶ、やってみる」フェーズだったものが、数年経って費用対効果を問われるフェーズに入ったことで、高い壁にぶつかっている、という声が多く聞かれるようになりました。
費用対効果が問われ、予算縮小に
やることの多さに対する人材不足、求められる知識の幅広さ、事業部との連携、海外市場の支援…、マーケティング組織がぶつかる壁は多岐にわたりますが、一番大きな壁はやはり、会社から求められる成果、つまり売上に貢献できずに予算が縮小してしまう、ということではないでしょうか。その結果、打てる施策にも限界があり、結果的に成果が出ない……という負のサイクルに陥ってしまう企業も少しずつ出てきています。
デジマ組織が成果を出しにくい理由
では、製造業においてデジマ組織がなかなか売上に貢献できない理由はどこにあるのでしょうか?
ここでは、現代の営業組織のあり方を確認したうえで、デジマ組織が成果を出しにくいとされる理由を探っていきます。
The Modelがお手本とされる現状
BtoB企業のデジマ組織のあり方として、最もポピュラーかつメジャーな概念は「The Model」(ザ・モデル)でしょう。
The Modelとは、マーケティングからカスタマーサクセスまでの情報を可視化・連携し、部門の垣根を超えて営業効率の向上や売上拡大を目指す営業プロセスモデル。福田康隆氏の著書『THE MODEL』がBtoBマーケティングのバイブルとしてヒットしたこともあり、これをお手本としている製造業のデジマ組織は多々あります。
このThe Modelの考え方が普及したこともあり、「デジマ組織はリードを獲得・育成し、最終的に引き合いを創出して営業に渡すものだ」という認識があります。いわゆるデマンドセンターとなることが自分たちの役割だと認識する組織も多いのではないでしょうか。
ここでは、デジマ組織のゴールは引き合いを獲得し、営業に引き渡すまでになります。これは、引き合いを獲得後、商談化し、見積・提案を経て受注するのは営業の役割であり、デジマ組織はそこに関与しないと言う考え方が背景にあります。
しかしこの考え方は、企業内では理解されないケースも多いのではないかと感じています。これらを踏まえつつ、ここからはより詳しく、デジマ組織が成果を出しにくいとされる理由について挙げていきます。
理由1:マーケのKPIが理解されづらい
一つ目の理由は、マーケのKPIが理解されづらいことにあります。
企業では売上・利益を上げることが最重要とされるため、そこへの貢献を求められます。その結果、マーケ側がKPIとしているリード獲得や引き合い獲得があくまで途中経過にすぎず、売上貢献というKGIで評価されてしまうケースが多くなります。
この売上貢献は、マーケ組織からは直接コントロールできません。
結果、「マーケはコストばかりかかって、業績に貢献できていない」とみなされてしまうのです。
理由2:製造業特有の検討期間から評価のギャップが生じる
続いての理由は、検討期間の長さです。
マーケティングの成果は通常、四半期や半年、1年など年度単位で評価されます。
しかし製造業の取引は検討期間が長い傾向にあり、今年度のマーケ活動が来年度以降に成果に結びつく…といったケースも多くあります。それを実現するためには、当然顧客が予算化するタイミングまで接点を保ち続ける必要があります。それは数ヶ月先かもしれないし、3年先かもしれません。そんな中、会社からは「今年度かけた予算で、どれだけ売上に貢献したのか」を問われ、成果が出ていないと見なされてしまいます。年度単位の評価制度と、購買プロセスの長さが合っていないのです。
理由3:マーケと営業のどちらかの成果とするか定義しづらい
検討期間の長さの影響は、営業との連携にも影響します。
例えば、営業がすでにコミュニケーションを取っていた顧客が、デジマ組織の施策に反応した際、「すでに営業がコミュニケーションを取っていたのだから、デジマの成果とは言えない」と言われてしまうこともあります。
逆にマーケティング組織が作った引き合いだったとしても、その後長い期間の営業活動を経て成果に繋がった際、「マーケの成果とは言えない」とみなされてしまうケースもあります。
理由4:引き合いの「質」が低い
成果が出しにくい別の理由として、「質」の課題もあります。
たとえば、デジマ組織が少ないリソースでどうにか生み出した引き合いを営業に渡したとしても、そもそも営業がターゲットとする引き合いではなかったりします。営業は当然、目標数字を持って動いているので、予算、納期、案件規模など、その時々で求める引き合いの質があります。「The Model」では質の見極めはインサイドセールスが担うことになっていますが、高い専門知識が必要な製造業において、インサイドセールス部隊を作るのは人材調達・予算の兼ね合いから現実的に難しい場合がほとんどです。
その結果、マーケの創出した引き合いが営業の求める質に合っていない、というケースが生まれてしまいます。
理由5:営業リソース不足でフォローできない
営業側が既存顧客のフォローに手いっぱいで、新規の引き合いに対応できないといったすれ違いが起こることも少なくありません。
マーケの視点から見ると、せっかく引き合いを創出したのに、結果的に売上貢献などの成果に繋げることができません。
このように、愚直にThe Modelを守って引き合いを創出しても、製造業においては売上貢献に繋がらない状況が多くあるのです。
いまあるべきデジマ組織とは
このような状況に対し、まったく打ち手がないかというと、決してそうではありません。「The Model」のデジマ組織の役割にとらわれず、視野をより広げていくことで、成果が出せる。すなわち、会社の業績に貢献できるデジマ組織になれると筆者は考えています。
実際の成功事例を元に、その取り組み例をご紹介します。
成功事例1:マーケと営業で共通の目標を持ったセミナー運営で売上増
はじめに医療機器メーカーを例に、営業と同じ売上金額や受注率、商談化率をKPIに据えたデジマ組織の例をご紹介します。
この企業は医療機器を販売しており、特徴的なのは数多くのセミナーを既存顧客向けに開催していることです。医療機器メーカーにとっては、製品の導入よりも、導入してもらった医療機関においてスタンダードなメーカーになり、継続利用してもらうことが重要です。医療業界の特性もあり、セミナーは新規の引き合いを獲得するためのみならず、既存顧客の販売拡大のための重要な施策となっています。
セミナー集客は主に既存顧客へのメールマーケティングと営業からの声掛けで行っており、その7割をメールマーケティングから集客しています。セミナー終了時にアンケートをとり、営業からの詳細説明やデモを求める顧客を抽出する仕組みも確立しています。
このような一般的なデジタルマーケティング活動を担いながら、受注システムのデータを元に、セミナーを起点として前後半年において、セミナーに参加した顧客の売上増減をKPIとして追っています。
当然、セミナーの参加だけが売上増減に影響しているとは限りません。当該期間の営業活動や、他のデジタルマーケティング施策が影響している可能性も十分にあるためです。
しかし営業と同じ目標を追うことで、一体感が生まれ、どのようなセミナーを企画したら、前後の集客やフォローアップをどう改善したらより売上増に繋がるのか、様々なアイデアが生まれ、洗練された施策に進化させることが可能になります。
実際このメーカーは、過去の実績からセミナーへの参加が売上増にプラスの影響を及ぼすと判断し、現在も改善を続けています。同じ施策を打つのでも、目標を営業と共通にしたことで成果に繋がった事例だと思います。
成功事例2:行動履歴から抽出した見込み顧客のアナログ手段による共有
続いては、ある化学メーカーの事例です。
この化学メーカーではコンテンツをクリックしたユーザーリストを作成し、営業朝会の中で営業に配布。接点はあるものの営業からのフォローが手薄になっている人を抽出し、営業にフォローを呼びかける仕組みを作っています。
製造業では、「The Model」におけるシステマチックなスコアリングは必ずしも機能しません。なぜなら、「スコアの高い人」が「いま買う気がある」とは限らないからです。これは上述の検討期間の長さや、BtoB固有の計画・予算化の承認を経て、複数人で決済することが影響しています。そのため、スコアが高い順に「見込み顧客」として営業に共有しても、それが本当に見込み顧客とは限らないのです。
一方で営業は顧客企業と直接コミュニケーションを取っているので、部署や個人の役割、意思決定のスピード、持っている予算などを把握しています。彼らが行動履歴の情報を見ることで、「この部署のこの人が、このコンテンツを読んでいたのなら、すぐにフォローする価値がある」といったことが判断可能です。
この活動を通じて、製品購入を検討中のお客様にタイミングよくアプローチできた事例も多くあったと聞きます。また、既存顧客からの継続受注や、アップセルなどにも効果が出ているそうです。
共有手段が会議内というのも、成功したポイントだったと考えています。やはりデジタルデータで共有されるのと、会議内で確認するのでは、情報を受け取る営業の視点で分かりやすさが大きく違ったのだと思います。
成功事例3:マーケティング・営業共に利用可能なアセット整備
ある完成品メーカーでは、営業・デジマ組織が協働して顧客の「課題解決事例」を作成しています。顧客の名前を公開できないケースがほとんどであるため、オンライン上で公開されるコンテンツは、「よくある顧客の課題を、自社が解決した事例」といった構成になっています。このコンテンツは営業資料としてパワーポイントにもなっており、実際に営業が商談時に、自社のソリューション提案力を顧客に伝えるのにも役立っています。
また別の部品メーカーでは、過去に制作したホワイトペーパーや、ウェビナーのアーカイブをYouTubeに限定公開し、商談中の顧客に営業を通じて提供しています。
1時間程度の商談内で、自社のノウハウや実績を伝えきるのは困難です。その代替手段としてデジマ組織が作成した資料や録画データを営業が活用することで、受注率の向上を実現しています。
ここでの共通項は、営業・デジマ組織が協働して、共に利用可能なアセットを整備しているということです。
さまざまな企業がモノ売りからコト売りにシフトしていく中で、営業は高い課題解決・ソリューション提案力が求められています。そこで必要になってくるのが、「課題解決事例」「お役立ちノウハウ」などのアセットです。営業が現場で必要なアセットを、デジマ組織が作成する。この協力関係は、営業成果に直結します。
他方、デジマ組織から見ても、営業の協力が必要です。リード獲得や見込み顧客抽出のためのコンテンツが数多く必要とされる中、顧客をよく知る営業に協力を仰がないことには制作が難しいのがハードルになっています。
これらの事例は、双方の課題を協働することによって解決に向けて前進させた好例であるといえるのではないでしょうか。
成功事例4:営業活動のDX化をマーケが支援
最後にご紹介するのは、デジマ組織が営業組織の配下に入り活動をしている完成品メーメーカーの事例です。
この企業のユニークなところは、SFAの導入や運用定着支援、顧客データの統合管理、アセットの有効活用による営業活動の効率化、受発注のオンライン化など、営業DXの推進を担っている点にあります。
デジマ組織はデータの扱いやシステムの利活用に長けており、当然ながら自社の文化も理解しています。デジタル化の難しい営業組織を企業文化から変革し、データを用いて顧客の課題解決を実現する、理想的な営業DXをリードするのに、これほどふさわしい組織はないのではないでしょうか。
この活動はまだまだ道半ばですが、数年後にどのような成果を生み出すことができるのか、大いに期待しています。
デジタルとリアルの両輪で、会社の文化を変えうる組織に
このように、デジタルとリアルが2つの歯車となって営業活動を推進していくようになることは、会社の文化を変えていると言っても過言ではありません。「The Model」のように明確な境界線を引かずとも、営業と手を取り合うことで、デジマ組織は新しい役割を担うことができると確信しています。
デジマ組織の視野と役割を広げるご支援
デジタルマーケティングの真の成果とは、会社の業績に貢献していくことだと考えています。
そのためには、組織で役割を分割することや、数字ベースで施策を行っていくこと以外にも視野を広げ、幅広い役割を担っていくことも、行き詰まった現状を打破する一手ではないでしょうか。
何を目指して、どのような施策を行えばいいのかわからないなど、デジタルマーケティングに行き詰まっているご担当者様は、ぜひ一度イントリックスまでご相談ください。
著者プロフィール
コンサルタント/プロジェクトマネージャとして、大手製造業など数多くのデジタルマーケティング支援に携わる。2019年よりビジネスディベロップメント部門のマネージャとして、マーケティング・セールスの責任者。2023年よりデジタルマーケティング支援管掌の執行役員。
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