BtoBマーケティングコラム グローバルPIM導入で意識すべきこと

2023年12月22日

はじめに

「製品情報を活用してビジネス成果につなげたい」

このように考えているBtoB製造業の裾野は着実に拡がっており、マルチチャネルで製品情報を活用するためのグローバルPIMの導入や製品情報をフル活用した製品・ECサイトのリニューアルなどの動きが活発となっている。

弊社でも数多くのご相談をいただくが、気になるのがプロジェクトの進め方や投資優先順位の考え方だ。

本稿では、BtoB製造業が製品情報を活用してビジネス成果につなげるために必要となる基盤づくりの考え方について、カタログ・販促物やWebサイトで共通利用するPIM構築プロジェクトを題材に述べていく。

PIM構築プロジェクトでよく見られる落とし穴

筆者は2011年からBtoB製造業のグローバルPIM導入を含むサイトリニューアルに数多く携わって来た。

製品点数が数千点から十万点ほどの完成品メーカーや部品メーカーを中心に支援をしてきたが、プロジェクトの企画段階、構築段階、運用段階それぞれで“落とし穴”にはまり、プロジェクト計画の見直しだけでなく、凍結に至るケースもあった。

プロジェクトの各段階でよく目にする“落とし穴”とは下記のようなものだ。

各段階でよく目にする“落とし穴”

  • 企画段階:データ整備コストが想像以上にかかり、投資対効果に見合わない
  • 構築段階:データ追加・仕様変更が多く、スケジュール・コスト・品質に影響する
  • 運用段階:データ準備・投入作業に忙殺され、活用検討に時間が割けない

程度の差こそあれ、どのプロジェクトにおいても上記いずれかの“落とし穴”にはまり、試行錯誤しながら乗り越える、というパターンが多いのだが、これらの“落とし穴”が潜んでいることを踏まえたプロジェクトの進め方をすれば、投資対効果の高い戦略ツールの一つとしてPIMはもっと活用できると考えている。

そのためには、どんなことを意識しながら取り組めば良いのかを考えていきたい。

製品情報活用を考える上で意識すべきこと

製品情報を活用するためにPIM構築プロジェクトで意識すべきポイントは何か?
筆者は下記の3つのポイントが重要と考えている。

  1. どの工程、どの範囲の製品情報を対象とするか?
  2. 欲しい製品情報が「使える状態」でデータ化できているか?
  3. 「データを活かす層」と「データを貯める層」で考えているか?

1点目は、取り扱う製品情報の対象範囲だ。

製品情報と言っても「設計」「製造」「販促」「サポート」など企業活動の工程によって必要なデータは異なる。また、どの工程までを対象とするかによって関係部門の数も変わる。

これがプロジェクトの期間、コスト、難易度にも大きく影響してくる。

近年の傾向としては、「販促」「サポート」の工程にフォーカスしたいわゆる“販促PIM”が増えているが、投資対効果を高める上でもフォーカスする工程は絞るべきだ。

工程を絞り込むことは、PIM構築における社内の関係部門を絞ることにもつながる。

利害関係者が多くなると、「あのデータもこのデータも加えてほしい」という状況に陥りやすく、本来であれば重要度の低いデータ整備コストや社内調整工数を生むことになる。

こういった観点からも、対象とする工程の絞り込みは重要となる。

どの工程までを対象とするのかが決まったら、次に考慮すべきは取り扱う製品情報の種類だ。

カタログ、Webサイトなど利用目的や媒体、ターゲットユーザーに応じて必要となる製品情報は異なる。

初期段階では利用目的・用途を明確にし、必要な製品情報を棚卸しした上で優先順位を明確にしておく。

対象範囲が決まったら、2点目に考慮すべきは「利用したい情報のデータ整備状況」だ。

必要な製品情報のデータをどの部門が、どのようなルールでデータ化し、どのように管理しているのか、を調査して社内のデータ整備状況の現在地を明らかにしていく。

PIM構築プロジェクトでは、初期段階でこのプロセスを入れることが肝となる。

ある調査レポートではBtoB製造業の内、約8割の企業が「利用したい情報はあるが、すぐに使える状態になっていない」との結果が出ているが、筆者の感覚もこれに近しい。

データ化はされていても「部門単位」だったり、「ルールが統一されていない」状態だったり、「一部はデータ化されているが、一部はアナログ」だったりと、製品情報を全社・グローバルで活用するために必要となるデータマネジメントの考え方に沿ったデータ化が多くの企業でなされていない。

また、「ルールに沿ってデータ化する」ことは、これまでデータ整備をきちんとしてこなかった企業にとっては想像以上の負担となる。

筆者が過去に支援したある機械部品メーカーでは必要なデータの内、すぐに使えるデータは1割で、必要なデータをすべてデータ化するコストを含めると、初期投資額が想定をはるかに超えることが調査・計画フェーズで判明したため、プロジェクトの実施を見送った(表1)。

表1:ある機械部品メーカーのデータ整備状況の例
データの状態 データ整備レベル 割合(%)
すぐに利用可 CSV/TSVまたはXMLファイルでデータベースに投入可能 7%
加工・登録する仕組みや工数必要 整理はされているが1形番1ファイルになっている 55%
電子化されているが自動登録するにはプログラム開発が必要 27%
電子化されているが散在しているため手動投入となる 11%

また、ある大手複合機メーカーではデータ投入を自社で行うという判断をしたものの、データ投入作業のピーク時には100人近くの人員を要したとの話もあった。

このように、データ活用の目的は明確であっても、肝心のデータが用意できないという事態に陥らぬ様、自社のデータ整備状況と欲しいデータとのギャップを事前検証しておく事前検証プロセス(PoC)が重要となってくる。

3点目は、データ活用を考える上でデータには「データを活かす層」と「データを貯める層」の2つの層があり、それぞれの層での検討がプロジェクトを成功させる上で非常に重要ということだ(図1)。

図1:製品情報の活用で意識すべき2つの層

さらには、「データを活かす層」での検討をしっかりと行った上で、「データを貯める層」の検討をすべきなのだが、未だに「データを取りあえず貯めておけば、使えるだろう」という思考のもとでデータ活用のあり方の検討を十分に行わないまま、PIM導入を進めるケースが多いことに筆者は驚いている。

理由としてはコスト絡みのものが多いのだが、コストを理由に「データをどう活用するか」の検討をしないままプロジェクトを進めてしまうのはなぜなのか?

それは「データを取りあえず貯めておけば、使えるだろう」という誤解によるものだ。

データというものは万能ではなく、同じ情報であっても用途や媒体に応じて加工や追加が必要となるし、システム上での管理単位も異なる。

また、「製品情報を活用するために必要なデータ」の中にはマーケティング用の製品分類やキャッチコピー、製品情報の並び順や表示/非表示などに必要なフラグ情報など媒体固有で必要となるデータも数多くある(図2)。

図2:製品情報を活用するために必要なデータ例

また、これらのデータをどのシステムで管理するかによって、運用時の担当者の負担も大きく異なる。

あるプロジェクトでは、PIM導入によって担当者は「データを活用する」ことに注力した付加価値の高い業務に時間を割けるはずだったが、後で発覚した差分データの格納場所や管理方法が宙に浮いてしまったことにより、PIM導入後も「データを投入する」ことに多くの時間を割く羽目になった。

PIMとWebサイト:製品データ活用の誤解と真実

筆者がこれまでご支援してきたPIM構築プロジェクトの建付けとしては、「カタログで利用する製品データをPIMに統合管理してWebサイトでも活用したい」というものが多かった。

いわゆるワンソース・マルチユースで製品情報を活用する、という発想としては素晴らしいのだが、ここで1つ誤解をしていることがある。

それは、「カタログで利用する製品データはWebサイトでもそのまま利用できる」というものだ。

確かに、PIMで格納できるデータの内、そのままの内容でWebサイトでも利用できるデータはあるが、全てではない。当然ながらそのままでは使えないものもあり、それらのデータはWebサイト用に加工が必要となってくる。

また、システムによってデータを格納する際の「管理単位」は異なる。

例えば、PIMは元々の思想が製品情報を管理するシステムなので、製品データの管理単位は「SKU」単位となるが、CMSはWebサイトのページやコンテンツを管理するシステムなので、管理単位は「ページ」単位となる。

また、製品選定ツールやECサイトなどで対象製品を絞り込む際、測定範囲など上限値と下限値があるようなものは同じ情報でもシステムによって必要なデータ型は異なる。

このように、製品情報を活用するためには、利用媒体で製品情報をターゲットにどのように見せる/提供するか、そのためにはどのような形でデータで持ち、管理すれば管理効率が良いのか、をしっかりと考える必要がある。

ところが、一般的なシステム構築ベンダーは製品情報を活用する段階には直接は関わらないため、「製品情報の見せ方・使い方」や「俯瞰視点での運用効率」といった点についての配慮は後回しになりがちだ。

必要なデータ一式は製品情報を利用するユーザー側で検討・提示してもらい、そのデータをどのようにPIM上で管理するか、というのがシステム構築ベンダーとしては基本スタンスとなるので、ユーザー側で提示できなければここで差分が発生する。

また、Webサイトで製品情報を利用する場合はページを表示するために必要な「レイアウト用データ」が必要だが、カタログや販促物ではレイアウトはソフトウェア上で行うため、これらのデータは不要となる。

このレイアウト用データが要・不要という媒体による違いも、「まずはデータを貯めるPIMから作ればよい」「PIMを構築すればWebサイト用にもそのまま利用できる」という誤解を生んでいる一因と考えている。

ではこれらの点を踏まえ、実際のPIM構築プロジェクトではどのようなアプローチを取って行けば良いのか?

自社のデータ整備の現在地から適切なスコープを見極める

筆者としては「調査・計画フェーズ」から専門家の知見を入れて進めることを推奨する。
調査・計画フェーズの実施内容のイメージとしては、

  • 現状調査/ヒアリング/課題抽出
  • 実現したいあるべき姿の整理
  • 要求事項の整理(ビジネス要求、業務要求、システム要求、データ要求)
  • 業務フローの整理(As-Is、To-Be)
  • データ整備状況の洗い出し
  • 必要なデータとデータ整備状況のFit&Gap
  • KGI/KPIの設定、投資対効果試算
  • 現実的なスコープ/ロードマップの整理

を行い、実現性のあるプロジェクトスコープ/進め方で製品情報活用基盤を構築する方針・計画づくりをゴールとする(図3)。

図3: 調査・計画フェーズの進め方

冒頭でも触れたが、BtoB製造業のデータマネジメント成熟度は総じて低い傾向にある。

このため、 “見切り発車”でプロジェクトをスタートすると「実現したいこと」と「データ整備状況」のギャップがかなりの確率で発生するため、必要なデータ整備にかかる期間とコストが大きな足枷となる。

自社のデータ整備状況の現在地とプロジェクトでの投資対効果を踏まえた現実的なプロジェクト計画を立てることがBtoB製造業がデジタルチャネルで製品情報活用を推進するための第一ステップとして正しいアプローチだと筆者は考えている。

まとめ

製品情報は企業活動の各工程に跨って活用する重要な情報であり、「点」ではなく購買プロセス全体を「面」で捉えて顧客体験とともにどのように活用していくかを考えるべき情報だ。

しかしながら、実際のプロジェクトの現場では「点」で進めて行く傾向が見られ、そういったプロジェクトでは当初描いた成果には程遠く、活用よりも運用・維持に貴重なリソースが割かれる状態となっている。

こういった事態に陥らぬ様、「データを活かす」ことを最初にしっかりと考えた上で、「データを貯める」ためのPIMをはじめとしたシステム導入のあるべき姿と運用継続性を考慮した導入が製品情報の活用を考えるBtoB製造業に浸透すればよいと考えている。

著者プロフィール

猪目 大輔
イントリックス株式会社 取締役CRO

広告ビジュアル制作最大手のアマナにてストックフォト事業のデジタル化を技術責任者としてリードした後、大手Webコンサルティングのサイエントにてテクノロジー担当ディレクターを務める。
2009年にイントリックスを設立し、取締役CTOに就任。都市計画の視点と顧客体験価値の最大化を軸に20年に渡り様々なBtoB企業のデジタルプラットフォームの企画構想、具現化を支援している。
2023年8月に取締役/CROに就任。

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