BtoBマーケティングコラム

BtoBデジタルマーケティングに必要な視点をモデルケースによって導き出す

BtoBデジタルマーケティングの最大の難所は、企業側が本質的な課題を導きだすための分析や、課題の重要度を判断して施策の優先順位を適切に決めていく過程にあります。これまで多くのBtoB企業を支援してきた経験から、企業側で明確な課題とやるべき施策を明確に認識されているケースは実は多くないといえます。

その理由は、BtoB業界では商流が複雑で、単一の施策では問題が解決しないケースが多く、定期的に現状を分析し、必要な対策を講じる必要があります。

しかし、データ分析力や専門知識が不足していると、そもそもの課題設定にずれが生じ、結果として施策の効果も期待できないでしょう。

そこで今回は、これまでの相談事例や経験をもとに、よくあるモデルケースを3つご紹介します。ぜひこれらのモデルケースを通じて、自社が抱える本当の課題を認識し、解決の糸口を見つけていただければと思います。

モデルケース1:ニッチ商材でトップシェアもしくは一定のシェアを獲得しているがサイトの集客は思わしくない

特定の業界で高いシェアを持つニッチ商材を取り扱っている場合、その業界内での知名度は高いことが一般的です。しかし、一般的な認知度が低いため、Webサイトへの訪問者数が増えず、新規顧客の獲得が思わしくないという問題が発生します。

「現状は業界でシェアを獲得できているから問題ない」と思われるかもしれませんが、現状維持は新たな成長の機会を逃がし、国内市場の縮小化や低価格の製品を供給する中国メーカーの台頭が目立つ現代では、結果として事業規模の縮小へと繋がってしまいます。

このような状況を打破するためには、どうすればよいのでしょうか?

原因

専門性が高くターゲット市場が限定されるBtoBマーケティングにおいては、自社商材の認知拡大は非常に難易度の高い施策です。ニッチ商材で一定のシェアを獲得しているのにサイトの集客が少ない場合、主に以下の3つの原因が考えられます。

  • ①一般的な認知度が低いため指名検索数が少ない
  • ②商品関連ワードの検索ボリュームが少なくSEO施策の効果が限定的
  • ③SEOの競合にECサイトが上位表示されている場合は、現実的にトップ表示は難しい

それぞれの解決策を見ていきましょう。

①の解決策

指名検索数を増やすためには、自社の認知度を高めることが不可欠です。「○○といえばA社」と高い第一想起率を持たれれば、顧客が商材を比較検討する際に、指名検索によって自社ブランドを選んでもらえるようになります。

自社の第一想起率を高めるためには、情報感度が高まっている興味関心段階で、自社の存在を認識してもらうことが有効です。

ただし、第一想起されても、商材が優れていなければ最終的に選ばれることはありません。このモデルケースではすでに業界内で一定のシェアを確保しているため、商材の質は十分に高いと考えられます。

したがって、認知さえしてもらえれば最終的に選ばれる可能性が高まります。今後は、潜在顧客層にアプローチすることが効果的であり、そのためには②と③の原因に対処することが重要となります。

②と③の解決策

ニッチ商材はその特性上、関連するキーワードの検索ボリュームが少ないため、SEO施策の効果が限定的です。また、商品名が一般的に流通している商品(家電製品やカメラなど)と同じ場合、ECサイトなどが上位表示されるため、自社サイトをトップ表示させることは困難でしょう。

このような状況に対処するためには、まず上位獲得の難易度が低いキーワードの組み合わせを見つけることが重要です。地道な活動になりますが、Google AnalyticsやSearch Consoleなどの解析ツールを用いて、自社サイトへの流入が発生している検索語句を確認しましょう。

弊社がご支援する際、顧客のみならず、営業部や事業部、研究開発などの関連部門へのヒアリング調査を実施し、顧客が抱える課題や検索時に使用しそうな言葉を把握し、ニッチキーワードやロングテールなキーワードを特定しています。

図1:Search Volume Distribution of 4 Billion Keywords(from Ahrefs' US database)
出典:ahrefs blog
https://ahrefs.com/blog/long-tail-keywords/

BtoB企業がロングテールキーワード中心でコンテンツ展開するべき理由は、上位表示の実現可能性が高く、トータルのボリューム数は多いためです。世界的なSEOツールを提供するahrefsによれば、検索語句の約95%が月間検索ボリューム数10以下のロングテールキーワードとのこと。

1つ1つのキーワードの検索ボリュームは小さくとも、多数のニッチなキーワードをカバーすることで、トータルでの検索流入数を大幅に伸ばすことが可能です。

このようなアプローチにより、サイトへの認知度を高め、より多くの潜在顧客にブランドの存在を知ってもらえるようになります。

即効性を求める場合は広告が有効

SEOは効果が出るまで最短で3ヶ月以上はかかる中長期的な施策です。即効性を求める場合には、広告出稿とLPの制作が有効になります。

ただし広告と一口に言っても、リスティング広告やSNS広告など多様な種類があるため、ターゲットの情報収集チャネルや競合状況、予算などを踏まえて配信先を選定しましょう。

例えば、自社商材名で検索をしたときにECサイトの広告が配信される場合、多くの入札単価を投じる必要があるかもしれません。

以上の施策を通じて、ニッチ商材でも効果的な集客と認知度向上を図ることが可能です。市場シェアに満足せず、常に新たな成長機会を追求する姿勢が、長期的な成功の鍵となります。

モデルケース2:商品数が多いがカテゴライズが難しく情報が探しにくいサイトになっている

長年にわたる技術の蓄積と顧客の多様な要望に応える中で、自社製品やサービスが増加した結果、Webサイトの構造が複雑化することは珍しくありません。

特にBtoBの製造業においては、製品のバリエーションが多岐にわたり、カテゴリ分けが難しい場合があります。このような状況では、Webサイト上での製品情報の探しにくさが顧客にとっての大きな障害となり、多くの集客ができても、問い合わせや申し込みなどのコンバージョンにつながりません。

原因

具体的な原因としては以下の点が挙げられます。

  • ①製品カテゴリトップページ等のメニューが多くなり、1ページあたりが長くなる
  • ②事業部ごとに独自のルールでサイトを管理しており、整合性が低い
  • ③問い合わせフォームや資料請求の導線が整理されておらずユーザビリティが低下している

1ページあたりに記載する製品が増えすぎてしまうことで、ページ下部に掲載された製品が見られないことが多々あります。

また、各事業部が独自ルールでサイトを管理している場合、サイト全体の整合性が低下し、ユーザビリティが著しく損なわれます。さらに、問い合わせフォームや資料請求の導線が整理されていなければ、ユーザーが必要な情報や支援を受け取るのが難しいという問題も生じるでしょう。

①と②の解決策

ユーザー目線でのカテゴライズメニューを設置することが求められます。

ユーザーが自身の課題に基づいて製品を探せるように、課題別や産業別のメニューを作成し、情報提供方法を多角化することが重要です。例えば、製品を「用途別」「業界別」「機能別」「仕様別」といった異なる切り口で分類し、それぞれのカテゴリにアクセスしやすくすることで、ユーザーは求める情報を容易に探せるようになります。

弊社がご支援した株式会社ミツトヨ様の場合、5,500点を超える業界トップクラスの商品数を揃えており、以下のような課題を抱えていました。

  • 商品情報をデジタル空間で効果的に提供できていない
  • 各メディア用に商品情報が個別管理されているため、整合性が低い

この問題を解決するため、同社のコーポレートサイトをゼロから再設計しました。具体的な施策は以下の通りです。

  • 製品特性の違いを考慮した設計:マイクロメータやノギスといった「測定工具」と、複雑・高単価な「機器商品」などの製品特性や商流の違いを反映
  • ユーザー視点に立った商品分類の再仕分け:ビジネス特性を分解し、ユーザーが探しやすいように商品を再分類
  • PIMの導入:PIM(製品情報を一元管理・配信するシステム)の導入により、Webサイトやカタログなど様々なデジタルチャネルで商品情報の体系化
btobmarketing-modelcase_pic03

このようにユーザーにとって探しやすい設計にすることで、ユーザーは必要な情報に迷うことなくたどり着け、結果的に製品ページを最後まで見てもらえるようになります。

③の解決

BtoBビジネスでは、商材選定過程で多くの資料が必要となるため、ターゲットがスムーズに情報を入手できる環境を整えなければいけません。

まず、製品ページの構成を見直し、ユーザーが必要な情報に容易にアクセスできるよう再設計することが重要です。例えば、1つのページに複数の製品をまとめるのではなく、各製品ページをLP風に設計し、ページ上部で特徴や強みなどの必要な情報を提供します。これにより、ユーザーは製品の特長を一目で把握でき、効率的に情報収集が行えます。

また、各製品ページに効果的なCTAを配置することも重要です。

通常、CTAはページの中部や下部に設置されることが多いですが、商材が複雑なBtoBビジネスにおいては、ユーザーがとりあえず問い合わせや資料ダウンロードを行い、その後詳しく検討するケースも少なくありません。そのため、CTAも各製品ページのファーストビューに設置することで、ユーザーがすぐにアクションを起こせる環境を整えましょう。

製品ページの構成を統一し、共通化することで、サイト全体の整合性が高まり、ユーザーが迷うことなく製品情報の参照や資料ダウンロードが行えるようになります。これにより、ユーザー体験が向上し、コンバージョン数の増加に期待できるでしょう。

モデルケース3:自社の強みがうまく訴求できておらず、MQLの質の向上につながっていない

業界内で高い技術力を持ち、一定の知名度を有している場合でも、その強みを効果的に訴求できていないことがあります。特にBtoBの製造業においては、企業が提供するソリューションの価値が十分に伝わらず、新規の問い合わせが商談に繋がらないケースが多く見られます。

原因

具体的な課題としては、以下のような点が挙げられます。

  • ①Webサイトの構成
  • ②事例紹介不足
  • ③潜在顧客のニーズ把握不足

多く見られる原因が、Webサイトの構成が製品中心となっており、企業のソリューションや技術力が十分に訴求されていないことです。新規ユーザーにとっては、企業の強みが明確に伝わらず、単なる製品問い合わせが増えてしまい、実際の商談には繋がりにくくなります。

また、事例紹介を拡充したいと考えても、顧客の承諾を得られないため、掲載ネタが少ないという問題もあります。さらに、潜在顧客のニーズがよく分からず、提供する情報がマッチしていないということもあります。

①の解決策

Webサイトの構成の改善には、大幅なリニューアルが必要となるケースがあります。しかし、予算や人員などのリソースが限られている場合、まずは部分的な改修から着手し、徐々に改善を重ねていくとよいでしょう。例えば、商材の強みを訴求するための特設コンテンツを作成し、技術情報やソリューションについて詳細に説明するなどです。

キヤノンマーケティングジャパン様は、3Dプリンター事業への本格参入にあたり、従来のWebサイトでは単なる製品紹介になっており、顧客に自社の強みを訴求できていない課題を抱えていました。そこで、長年の実績と技術力を持つ同社ならではの強みを訴求する特設サイトを制作しました。

この特設サイトでは、同社の革新性や高機能性、技術力の高さを分かりやすく説明し、顧客の不安を解消する方針としました。さらに競合他社との徹底した比較も行い、キヤノン製品のメリットを明確に打ち出しています。

その結果、問い合わせ件数が増加するだけでなく、ショールーム来場者数も伸びるなど、良質なリードが継続的に獲得できるようになりました。サイト改修の足がかりとして、こうした特設コンテンツ制作は有力な選択肢と言えるでしょう。

②の解決策

顧客の事例コンテンツを拡充できない場合は、自社にどのような技術があり、何を解決できるかということを訴求していくとよいでしょう。

ナノレベルの精密・高精度な真空成膜技術を持つジオマテック株式会社様は、これまで認知されていなかった潜在層の獲得を目指す施策の1つとして、コンテンツの拡充をしました。

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製品情報だけでなく、完成品メーカーの企画担当者向けに「こんな製品や用途に活用できる」といった事例コンテンツを制作し、新規用途を想起してもらえるような工夫を実施。加えて、自社の工場や設備を紹介し、高い技術力と生産能力を具体的にアピールしています。

このように、顧客事例が掲載できなくとも、自社の強みを別の形で訴求することは可能です。数値やデータを活用したり、新しい活用例を提示するなどの方法で、技術力や製品の価値を伝えられます。

③の解決策

①と②の解決策にもつながりますが、潜在顧客のニーズを正確に把握することは、適切なマーケティング戦略を立案する上で欠かせません。そのためには、まず自社の強みを再認識し、それを活かせるペルソナを設定する必要があります。

先にご紹介したジオマテック株式会社様の場合、グローバル市場への販路開拓を目指していましたが、海外市場への販売実績が不足していたことから、潜在顧客のニーズが分からず行き詰っていました。そこで自社の強みを見直す作業を始めます。その過程で同社製品には様々な新しい活用方法があることが分かってきました。

例えば、美術品の額縁ガラスに同社の製品を使えば、光の反射をなくし、絵の繊細な筆致までくっきり見えるようになるのです。こうした発見から、美術館などの新規市場が浮かび上がり、ターゲットとなる潜在顧客層も明確になってきました。

自社の技術的強みと製品の新しい用途を掘り起こすことで、潜在顧客像が判明します。そして、そのユーザー層に合わせてペルソナを設定し、各種マーケティングの改善に活用していきましょう。

具体的には、ペルソナに合わせてLPのメッセージを変更したり、製品の新しい活用方法を紹介するコンテンツを作るなどの施策を重ねていきます。こうしてデータを収集・分析し、さらなる改善につなげていくサイクルを継続することで、施策の精度が高まります。

まとめ

本記事では、3つのモデルケースを紹介してきましたが、実際に企業が抱える課題は様々です。

自社で認識している表面上の問題だけでなく、潜在的な課題が多く存在する可能性もあります。そうした潜在課題を発見するには、第三者の専門家による客観的な調査分析が有効です。

例えば競合分析を行うことで、自社の弱点や遅れている部分が浮き彫りになるでしょう。こうした徹底した分析を経て、初めて本当の課題と対策の方向性が見えてくるのです。

デジタルマーケティングの最適化に際しては、一時的なコストや工数の発生は避けられません。しかし中長期的な視野に立てば、こうした抜本的な対策こそが、将来の大きな飛躍につながる近道となり得ます。

自社の競争力や存在価値を高めるためには、現状分析と課題解決に向けた確かなアプローチが必要です。ぜひ一度、社外の専門家に分析を依頼されることをおすすめします。

著者プロフィール

矢尾 雅哉
プロジェクトマネージャー/コンサルタント

武蔵工業大学(現東京都市大学)工学部 建築学科卒業後、設計事務所に勤務し、教育施設やスポーツ施設等の公共施設の設計業務に携わる。
2006年、製造業向けポータルサイト運営会社に勤務し、BtoB製造業を中心としたWEBサイトのリニューアルを担当する。案件の進行、ディレクション、CMS導入等のプロジェクト全体管理を行う。
その後、IR支援会社、大手インターネット総合支援企業を経てイントリックスに入社。主にプロジェクトマネージャーとしてサイト調査・戦略立案、デジタルマーケティング支援を担当。IR支援会社で培った事業分析の知見や、大手インターネット支援企業で携わっていたBtoC企業のデジタルマーケティング支援の経験を活かしプロジェクト進行を担う。

■ 過去主要プロジェクト

  • 画像検査装置メーカー:サイト調査・戦略策定
  • 大手工作機械メーカー:サイト調査・戦略策定、リニューアル要件定義
  • 大手工業機械メーカー:顧客満足度調査分析支援
  • 大手映像機器メーカー:サイト調査・戦略策定
  • 大手映像機器メーカー:デジタルマーケティング伴奏支援
  • 大手映像機器メーカー:グローバルサイト調査・戦略策定

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