- ブレッドクラム
-
- HOME
- BtoBマーケティングコラム
- BtoB製造業のデジタルマーケティング~海外市場での進め方
BtoBマーケティングコラム BtoB製造業のデジタルマーケティング~海外市場での進め方
2023年2月20日
グローバルマーケティングの強化が急務のBtoB製造業
日本のBtoB製造業の未来が海外の新規顧客開拓にかかっていることは、誰の目にも明らかです。
海外売上と言っても、海外進出した日本の完成品メーカーが主たる顧客で良かった時代は過ぎました。これからは、存在感を高めている外国の完成品メーカーや新興企業と取引できなければ、海外市場の成長を取り込むことはできません。
BtoB製造業はかつてないレベルで、グローバルマーケティングの必要性に迫られています。
一例をあげてみましょう。自動車部品メーカーはこれまで、系列の自動車メーカーの新車開発に合わせて部品の開発・供給を行なってきました。取引先の所在も、求めるものも、売れる時期も、ある程度のボリュームもわかっている世界にマーケティングは必要ありませんでした。
しかし、EVの登場によって業界の景色は一変しつつあります。米国のテスラ、中国のBYDなど、新興EVメーカーの台頭は著しく、しかも、残念ながらそれらはことごとく海外メーカー。
海外の新興メーカーと取引するには、勝手知ったる日本メーカー相手と異なり、自分は何者かから始め、実績や技術力、供給力などを伝え、自社の価値を理解してもらわなければなりません。しかも新たなメーカーはこれからも増えるでしょうから、数ある機会から適切な相手やタイミングを見計らって行動する科学的なアプローチが求められます。
このように、自社製品の買い手ががらりと変わりうる事態は、自動車業界のみならず、あらゆる分野で進行しています。迫りくるゲームチェンジの波に乗り遅れないためには、世界中でマーケティングを行なうことが不可欠となっているのです。
各国のデジタルマーケティングは現地任せで良いのか
マーケティングの第一歩は市場を知ること。ですから、各国におけるマーケティングは、各国で行うことが基本です。
ただ、本社のある日本と比べると、各国での実績、販売網や広告・プロモーションは、当然ながら手薄です。一方、先行する現地競合先のビジネスはこれまでのマーケティングの積み上げで成り立っており、追いつくのは容易ではありません。多くの日本企業は、徒手空拳の戦いを強いられているのです。
「現地のことは現地で」の原則論はあれど、もし、本社からの支援があれば、マーケティングの立ち上げや質向上のスピードは速まり、武器不足の戦いには大いなる助けとなるはずです。
特にデジタルマーケティングは、伝統的なマーケティングよりもスピーディかつ広範に顧客接点を作れるので、後発の企業にとって、きわめて有効なマーケティング施策です。
BtoB製造業の製品は、グローバル性の高いものが多く、Webサイト、製品データベース、コンテンツ素材やシステムツール類などを世界共通化しやすいため、各国のデジタルマーケティングは本社としても支援がしやすいと言えます。
さらに電子部品のようなグローバル商材だと、世界中で同じものを販売するため、完全なグローバル共通基盤上でデジタルマーケティングを行なうことができるのです。
日本のBtoB製造業にとって、最大の成長の源泉は海外の新規顧客開拓。先の原則論もあって、各国のデジタルマーケティングを現地任せにしている企業は多いですが、取り組みの重要性を踏まえると、十分に自立できていない地域は、本社が積極的に関与することで、スムーズに軌道に乗せる後押しをするべきでしょう。
本社ができる6つの支援
ではBtoB製造業が海外でデジタルマーケティングを行なう上で、本社はどんな支援ができるのか、6つの基本形を一つずつ見ていきましょう。
本社の支援(1):Webサイトのひな形提供
デジタルマーケティングの中心となるのはWebサイトです。ネット広告やSNS、スマホアプリが、限られた情報を瞬間的に提供するものであるのに対し、Webサイトは企業として公に出来る情報をいつでも見てもらえる場だからです。
各国の情報発信の核となるWebサイトのLook&Feel(ビジュアル、情報構造、ユーザビリティ)をどこまで共通化するかは、事業内容や企業規模、文化などで異なりますが、もし、各国任せのWebサイトのLook&Feelに問題がある場合は、本社からテンプレートを提供することで、改善を早めることができます。
本社の支援(2):デジタルマーケティング基盤整備
Webサイトのひな形提供が、表層上の統一であるのに対し、マーケティングを支えるシステムツール群も共有化するのが、デジタルマーケティング基盤整備です。製品の地域性が低く、世界共通部分が多い場合、グローバルな共通基盤を持つ選択肢が視野に入ります。
共通化しうるシステムは、サーバーからコンテンツ管理システム、製品データベース、MA、SFA、CRM、EC、素材管理ツールなど多岐にわたるので、費用対効果に応じて共通化範囲を決めて進めます。半年から1年で行なえるひな形提供に対し、デジタルマーケティング基盤整備は少なくとも2-3年、もしくはそれ以上かける大がかりな取り組みとなります。
整備に関わる関係者や連携システムの多さから、ここで紹介している6つの本社支援策の中で最も難易度が高く、入念な計画とプロジェクト推進が欠かせませんが、取り組みの巧拙の差が出やすい分、競合に大きな差をつけられる施策だと言えます。
逆を言うと、キーエンスやDMG森精機のようなBtoB製造業におけるデジタルマーケティングのベストプラクティス企業は、デジタルマーケティング基盤を早期に確立したからこそ、今の立場を築けたのです。
本社の支援(3):コンテンツ・素材の提供
Webサイトの運用で多くのBtoB製造業が困っているのは、コンテンツ制作力です。人材・スキルや予算が不十分なため、継続的なコンテンツの増強が難しいのです。
BtoCと比べると、コンテンツ制作の外部パートナーの層がまだ薄いことも一因です。日本の本社ですらそうなので、海外現地法人は推して知るべしでしょう。
しかし、せっかく良いWebサイトを作っても、中身がなければ意味がありません。BtoBの場合は、本社で作ったコンテンツや素材は、海外でも再利用できるものが多いので、使いやすい形で提供をすると、海外サイトの充実化にストレートに役立ちます。もちろん、コンテンツ制作費や時間の節約にもつながります。
筆者はかれこれ20年以上、BtoB製造業のデジタルコミュニケーションをお手伝いしていますが、海外へのコンテンツ・素材提供は最も喜ばれ、継続的に利用される支援の一つだと思います。
本社の支援(4):ナレッジシェア
デジタルマーケティングは業務としての歴史が浅く、知識の蓄積が不十分なので、担当者は困りごとだらけの状況です。ただし、デジタル活用は世界中で同時に進んでいるので、実は、各国担当者も同じことで悩んでいます。
ですので、他国の取り組みや成功事例、共有可能な仕組みなどを、グローバル社内SNSやWeb担当者会議、ガイドブック化を通じてシェアすれば、世界中の担当者はとても助かるし、知識の底上げにもつながります。
もちろん、各国内でも教育は行われているはずですが、BtoB製造業のデジタルマーケティングを教えられる人・講座は少ないので、自社の他国での経験やノウハウであっても、非常に役に立つのです。また、デジタルマーケティングは、数字はとれても、良いのか悪いのかの相場観がなくて解釈に困ることが多いのですが、各国の数字の集積により、良し悪しを判断する基準を形成することもできます。
なお、欧米は同じ文化・言語圏ということもあって、独自にコンタクトをとってナレッジシェアすることがありますが、グローバルなシェアを進めるには、本社が音頭をとって情報を仲介する場を作らねばなりません。
変化の速いテーマに、人材・スキルが足りないまま一国で悩むより、十か国で知恵を共有した方が、組織の力ははるかに速く強化できるでしょう。
本社の支援(5):本社主導の情報発信
電子部品やFA機器、工作機械、素材のようなグローバル商材の場合、製品情報を本社で一元管理しているため、各国市場への情報発信も本社が一元的に行ない、これをベースに各国でマーケティング施策を実施します。
企業規模が大きければ、世界共通のデジタルマーケティング基盤から、ローカルサイト経由で発信しますが、規模が小さく、各国にローカルサイトを持つことができない場合は、グローバル同一の情報を多言語で発信します。それが、本社の情報発信を横目で見ているうちに自国でやる意識が高まり、各国でのデジタルマーケティングに発展する場合もあります。
本社の支援(6):本社にしか解決できない問題への対処
国境を簡単に超えるインターネットでは、各国拠点の取り組みが相互干渉することがあります。
例えば、A社の米国ユーザーが、米国サイトと思ってA.comにアクセスしてみたら、世界に向けたグローバルサイトだったというケース。この企業の米国サイトは、A-usa.comなのですが、米国人にとってWebサイトのURLは、企業名+.comが普通であり、A.comと考えるのは自然なことです。しかし、A.comの内容は米国向けではないので、米国ユーザーが求める情報はありません。
この場合、A.comを運営する日本の本社は、米国からの来訪を検知次第、ここは米国サイトではないこと、および米国サイトへの案内を出すなどの迷子対策を打ち出す必要があります。
SNSはもっと厄介で、自社のロゴを掲げる偽アカウントや販売代理店アカウントが存在するため、ユーザーが迷わないように世界中の公式アカウントを整理し、自社サイトに掲載することが求められます。
Webサイト、SNS、アプリは、気軽に立ち上げられることが良さですが、その分、乱立・重複が起こりやすく、コスト面の無駄やお客様を迷子にしてしまうリスクがあります。各担当者レベルで正しい対応をしていても生じるこの手の問題は、本社が気にして拾い上げ、解消するしかありません。
2023年の企業規模別 本社支援状況
このように各国のデジタルマーケティングを支える施策は多岐にわたります。自国で行うことが原則ですが、本社からの支援が各国の早期自立を促したり、取り組みの質向上に役立つことが分かると思います。
本社でのデジタルマーケティングも道半ばの企業がほとんどですから、各国の支援まで十分に手がまわっていない企業は多いはずです。
そこで、自社の海外デジタルマーケティング支援がどのあたりにいるのかの目安となるよう、2023年時点の企業規模別支援状況について、簡単にまとめてみました。
売上1兆円~
- ローカルサイトのてこ入れは早くから取り組んでおり、ひな形提供によるLook&Feelの統一や、コンテンツ・素材提供は多くの企業が実施済み・継続中
- デジタルマーケティング基盤の構築は、事業部によるので濃淡あり。製品点数が多く、汎用製品の割合が多い電子部品・FA機器では、高度な基盤が活躍中
- ナレッジシェアは一時的に取り組めても、継続的に行なうことはハードルが高そう。まとめ役に依存するところがある
- .com迷い込みなど、本社にしか解決できない問題には対処済み
- 今後のメインテーマは、デジタルマーケティング基盤整備とデジタルスキル向上策の一環としてのナレッジシェア
売上1000億円~
- 予算面の制約から1兆円企業に5年程度遅れている印象だが、コロナ禍の数年前から動き出した
- 各国ローカルサイトの運用体制は脆弱で、本社主導の発信の比重が大きい
- 一方、1兆円企業と比べて事業構造がシンプルなので、フットワーク軽く動けている。相対的に調整事項も少ないので、1兆円企業の先を行くデジタルマーケティング基盤を実現するケースも出てくるのではないか
売上100億円~
- 本社運用の英語サイトだけで世界に発信していることが多いので、海外支援の必要性自体が薄い
- 海外市場に活路を見出す企業が、デジタルマーケティング基盤整備に大規模投資を行なうケースも出てきた
売上1兆円~ | 売上1000億円~ | 売上100億円~ | |
---|---|---|---|
1.Webのひな形提供 | 済 | これから | - |
2.デジタルマーケティング基盤整備 | 部分的 | これから | これから |
3.コンテンツ・素材提供 | 済 | これから | - |
4.ナレッジシェア | 部分的 | これから | - |
5.本社主導の発信 | 済 | 部分的 | 部分的 |
6.本社にしかできない問題解決 | 済 | これから | - |
全体として印象が強いのは、1000億円企業によるデジタルマーケティング基盤整備の取り組みです。
1兆円企業より遅れていたものの、保守的なBtoB製造業でもデジタルマーケティングが当たり前となり、部分的な取り組みでも効果を実感したこともあって、本格的な基盤整備に乗り出しつつあるようです。
デジタルマーケティング基盤整備は部門間連携が欠かせないため、整備の過程で膨大な調整が発生します。1兆円企業がその巨体ゆえに苦労しがちなのに対し、身軽な1000億円企業の方がスピーディに基盤構築を終え、いち早くフル活用モードに移行していくケースは増えてきそうです。
海外デジタルマーケティング強化の第一歩を踏み出そう
長らくBtoB製造業を見てきた中で不思議に思っていることがあります。それは、本稿のテーマでもある本社による海外支援です。
研究開発、生産、販売、サービス、オペレーションなど、多くの業務では、本社で培ったノウハウを指導や人材交流の形で海外に移転する活動が行なわれているのに、デジタルマーケティングにはそれがないのです。
ですが、BtoB製造業の成長は、海外での新規顧客開拓の成否にかかっているのです。他では行われてきた海外支援が、こんなにも大事な業務で行われないで良い訳がありません。
海外のデジタルマーケティング強化の第一歩として、まず、現地法人がどんな困りごとを抱えているのか、探るところから始めてみてはいかがでしょうか。「自国のことは自国で」が原則ですが、本社が支援できるところも必ず見つかるはずです。
著者プロフィール
1971年12月山口県生まれ。米プライベートバンクのBrown Brothers Harriman & Co.で株式分析業務に携わった後、大手WebコンサルティングのサイエントにてグローバルWeb再構築の担当役員を務める。BtoBはネットと高い親和性があるにも関わらず取り組みが遅れていることに着目し、2009年にイントリックスを設立。
BtoB企業のデジタルコミュニケーションを総合的に支援しています
BtoB企業に特化したサービスを提供してきたイントリックスには多くの実績とノウハウがございます。現状のデジタル活用の課題に対し、俯瞰した視点でのご提案が可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。
お問い合わせデジタル活用 無料オンライン相談会
BtoB企業のデジタル活用を支援してきた各分野の経験豊富なコンサルタントが、マクロな調査・戦略立案からミクロなデジタルマーケティング施策まで、デジタル活用の悩みにお応えします。
無料オンライン相談会概要・お申し込み
NewsPicks掲載「BtoBをアプデする」
イントリックス代表 氣賀 崇の公式note
noteでは、BtoBのデジタルコミュニケーションの面白さや意義、可能性などについて語っています